すでに文庫・新書バブルは崩壊? 勝ち残るのはどこ:出版&新聞ビジネスの明日を考える(5/5 ページ)
2008年の1年間、8719点の文庫と3625点の新書が出版された。参入する企業が増え、タイトル数は増えているのに、売れる数は減っている……文庫・新書の現状を見ていこう。
勝ち組はごくわずか、大部分の本は売れていない
このようにタイトルを挙げながら見ていくと、文庫も新書もなかなか賑やかであり、売れ筋も単純ではなく、活性化しているように思われるが、大部分のレーベルは全体としては売れ行き不振に苦しんでいるという。
「確かにベストセラーも出ていますが、勝ち組はほんの一部で、大部分は売れていません。出版社の経営を支えるのに、貢献していないのが実態です」と分析するのは、出版業界紙『新文化』の石橋毅史編集長。
書店にとっても、単価の安い文庫や新書ばかりが増えて、書棚が占領されるのは、経営面で好ましいとは言えないのではないか。話題性がある文庫・新書が呼び水になって、書店に人が来る集客効果は否定しないにしてもである。「読者にしてみれば、タイトル数が増えすぎて買っていられないということなのでしょう。特に新書は淘汰の段階に入ったと見ています」
コンスタントに売れるタイトルを刊行できている、出版社はあるのか。「文庫、新書ともに筑摩書房は、大ヒットこそあまりないが、スマッシュヒットが多くコツコツと当てていっています」。筑摩書房は『新文化』(2009年1月15日付)の菊池明郎社長インタビューによれば、文庫・新書の売上シェアが70%を超えるそうだ。
業界全体では書店平均で、文庫が11%、新書が2%のシェアとされる中で、他社はどこまで文庫と新書に本気で力を入れているのか疑問もあるが、筑摩書房は文庫と新書に絞って、徹底的に売れ筋を研究した成果が出ている模様だ。
言い方が適切かは分からないが、もうお好み食堂の一角でラーメンを出しているような感覚で、文庫・新書を出版しても通用しなくなりつつある。ラーメンは繁盛している専門店で食べたほうがうまい。
文庫・新書も、専門出版社が専門の味を出した出版を行う時代に、突入したのである。
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