auの新ブランド「iida」。その先鋭的な狙いとは(2/2 ページ)
企業戦略を読み解くには、経営学のフレームワークやセオリーが有効。しかしそれにこだわり過ぎると、本質を見失うことになるかもしれない。そんな事例が、2008年度携帯契約純増数で4位に転落した、KDDI(au)の展開だろう。
「考えてみると、ケータイは使っている時間より、ただいっしょに『過ごしている』時間の方が長いのかもしれない。人とケータイが共有する、すべての時間を『デザインする』こと。それがauの考える『ユーザー・インターフェイス』。」
使用する機能ではない。人が最も身近に置き、長い時間を共有する機器である「携帯電話」という存在そのものの「価値」を問い直した展開なのである。
もっとキレイにワンセグを見たい。ケータイでもっと楽しく遊びたい。音楽を聞きたい。デジカメ並みの写真が撮りたい……。そんな機能特化ニーズを持った多くのユーザーはauブランドで取り込む。競合に差別化を図る高機能で勝負するのは、純増数では最下位となったとはいえ、チャレンジャーとしてのポジションを維持するためには欠かせない戦略だ。
一方で、デザインプロジェクトの支持層のように、携帯電話に新たな価値観を求める層が少なからず存在していることをauは見逃していない。その人々に、「この指止まれ」と発信し続ける。プロジェクトではなく、新たなブランドの立ち上げという形に踏み切ったことで、戦略をより明確化させたということだろう。
恐らく、競合各社は同様な展開をとってはこまい。デザインプロジェクトを引き継ぐiidaはauのニッチャー戦略であるといえる。
ニッチャーは独自の生存領域の確保こそが戦略の要。「デザインのau」のイメージの回復は、デザイン支持層というユーザーセグメントと、ポジショニングを強固にするための明確な方向性であるといえる。
ユーザーニーズの機能強化とそこから離れる方向の二分化に対応した、KDDI(au)のチャレンジャー戦略とニッチャー戦略。どちらかに絞り込めない苦しさはあるものの、8年間のデザインプロジェクトの結実である「iida」に賭ける思いは明確に伝わってくる。
金森努(かなもり・つとむ)
東洋大学経営法学科卒。大手コールセンターに入社。本当の「顧客の生の声」に触れ、マーケティング・コミュニケーションの世界に魅了されてこの道18年。コンサ ルティング事務所、大手広告代理店ダイレクトマーケティング関連会社を経て、2005年独立起業。青山学院大学経済学部非常勤講師としてベンチャー・マーケティング論も担当。
共著書「CS経営のための電話活用術」(誠文堂新光社)「思考停止企業」(ダ イヤモンド社)。
「日経BizPlus」などのウェブサイト・「販促会議」など雑誌への連載、講演・各メディ アへの出演多数。 一貫してマーケティングにおける「顧客視点」の重要性を説く。
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