裁判だけではない……写真週刊誌を追い込む脅威とは?:集中連載・週刊誌サミット(2/2 ページ)
1980年代に世間をにぎわせた写真週刊誌。大手出版社が相次いで写真週刊誌に参入したが、現在では『フライデー』と『フラッシュ』しか残っていない。厳しい状況が続いている中、今年の2月に就任した『フラッシュ』の青木編集長が心境などを語った。
裁判は今も“トラウマ”に
裁判に関しては、フラッシュ時代に何度か経験している。名誉棄損は民事だけではなく、刑事でも2回訴えられた。(刑事告訴で訴えてきた)1人はオウム真理教の横山弁護士で、「ワタクシは……」などと言うあの人だ(笑)。(当時の)大阪弁護士会には2000人の弁護士がいたわけだが、(記事で)「横山弁護士は2001番目の弁護士だ」と書いた。すると横山弁護士から「2000人しかいないのに2001番目はありえない」と訴えてきた。これを大阪府警が受理して、丸2日間、1日7時間ほど取り調べを受けた。しかし、いまだに何が悪かったのか理解できていない(笑)。
このほか訴えられた経験として(民主党の)小沢一郎さんにも、東京地検に告訴された。そのときは着手されたときと、時効寸前のときに1週間くらい(東京地検に)通った。行くたびに「明日までにこの証拠を持って来い」などと、宿題を出された。(そのときは)本当に生きた心地がしなかった。「気分が悪くなったら、待合室に行ってください」と書かれた張り紙がしてあったが、本当に具合が悪くなりそうだったのを覚えている。
しかし実際に訴えられたのは僕(当時、デスク)ではなく、光文社の社長だった。『フラッシュ』の場合、雑誌が発行された時点で、社長は記事を読む。社長は編集にはまったくタッチしていないのに、企業のトップを刑事被告人にした。このプレッシャーはいまだに、“トラウマ”になっている。さきほど田原さんからも「編集長は度胸がない」という言葉があったが、本当に耳が痛い。また(『週刊現代』に対する)高額賠償※も、相当なプレッシャーになっている。
コンビニ規制とネットの脅威
『フラッシュ』の場合、政治のニュースやスキャンダルも取り上げるが、『アサヒ芸能』と同じようにお色気記事も掲載している。お色気記事を読むことは読者にとって楽しみの1つだと思うが、最近ではコンビニの販売規制※や、東京都の有害図書指定※によって、(写真週刊誌を発売する環境が)厳しくなっている。
さらにコンビニ業界に対し、「コンビニが子どもたちの“悪の温床”になっている」「深夜営業をさせてはいけない」といった(世論の)プレッシャーがある。(これを受け)コンビニ業界は子どもたちに有害な雑誌は置かないようにしよう、きわどい雑誌はシール留めにして売ろう、といった規制の動きが出ている。
コンビニに行くと18歳未満のコーナーがあるが、そこに置かれている雑誌はシール留めされている。シール留めをされた雑誌は、相当な打撃を受けている。僕らはそうした基準を守って雑誌を作っているわけだが、今は携帯電話でアダルトビデオのモザイクなしが無料で見れる。こういった時代の中、(写真週刊誌は)本当にゆるい……ヌードを取り上げざるを得ない。イマドキの人たちにとっては「そんなの見飽きてて、つまらない」というような感想を抱くかもしれない。しかしこうした規制の中でも写真週刊誌を作っていかなければならず、本当に厳しい状況だ。
あと「ネットの脅威」ということも言われている。スクープを放っても、発売日の前日に2ちゃんねるなどに掲載されてしまう。どこから(スクープが)出てくるのかという疑問もあるが、(ネットに掲載されることで)週刊誌は元気をなくしていっている。また(ネットが)実売部数を確実に奪っていっている。しかしネットに書かれたからといって、「部数が下がる」と嘆いていてはいけないと思う。なんとか頑張っていきたい。
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