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『週刊文春』も危なかった……『週刊新潮』の大誤報を笑えない理由集中連載・週刊誌サミット(1/4 ページ)

ある日……「私が坂本弁護士一家殺人事件の実行犯だ」と名乗る男が、『週刊文春』の前に現れた。その男に対し『週刊文春』の編集部は、どのような取材をしてきたのだろうか? 当時、危うく誤報を飛ばしそうになったことを、木俣元編集長が明らかにした。

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 『週刊文春』のライバルといえば『週刊新潮』だ。両誌とも毎週木曜日に発売しており、木曜日が近づくと「どんなスクープが出るのだろう?」と期待する読者も多い。また「見出しを見てから、どちらかの雑誌を買う」という人もいるだろう。

 発行部数も両誌はしのぎを削っているが、1990年以降を見てみると、やや『週刊文春』が『週刊新潮』を上回っている。しかしそのライバルの『週刊新潮』は、朝日新聞襲撃事件の「実行犯」を名乗る男の手記を掲載したが、結果的に誤報だった。『週刊新潮』とスクープ合戦を繰り広げてきた『週刊文春』の元編集長・木俣正剛氏は、今回の誤報問題をどのように見ているのだろうか?

※この記事は、5月15日に開かれた“週刊誌サミット”の内容を掲載しています。

田中家と長島家から訴えられたことは、時代の節目

元木昌彦(司会):『週刊文春』の木俣元編集長は自民党の山崎拓……通称“エロ拓”のスキャンダルをスクープ※1した。このほか田中真紀子議員の長女※2の記事で……スキャンダルというほどでもないのに「出版差し止め」となった。もし週刊誌の発売前に出版差し止めとなったらどうすればいいのか? また他の週刊誌にも同じようなことが起きるかもしれない……。(『週刊文春』の出版差し止め問題は)さまざまな方面で“抑止効果”があったように思う。

※1:『週刊文春』は2002年の4月号で、山崎氏の愛人女性が宗教関係者である、などと報じた。これに対し、山崎幹事長側は「想像上の出来事を記事にしており、悪質な名誉棄損だ」と訴えた。このほか、別の愛人との関係などについて報じた記事(2件)についても、山崎氏側が文藝春秋を名誉棄損で訴えた。しかし一審の東京地裁は請求を棄却し、山崎氏の敗訴が確定した。
※2:『週刊文春』の2004年3月号に、田中真紀子前外相(当時)の長女の私生活に関する記事が掲載されることをめぐり、長女側が出版を禁止する仮処分を求める訴えを東京地裁に出し、短期間で認められた。

『週刊文春』の木俣正剛編集長

木俣正剛:出版差し止めの問題についてだが、幸いなことに高裁で引っくり返すことができた。それ以降、少なくとも『週刊文春』に対し、出版差し止めは提起されていない。編集者だけではなく、みなさんと一緒になって戦えばこういうことは起こらない、という例になっていると思う。

 もちろん、これからも出版差し止めを提起される可能性はある。しかし、もし提起されても、我々は対抗する手段を考えながらやっていくつもりだ。

 出版差し止めをされたのは『週刊文春』だけだ、と記憶されている方も多いのではないだろうか。ただ認められてはいないが、同じ時期に『週刊新潮』も出版差し止めを請求されている。『週刊文春』は田中真紀子さんの長女から、『週刊新潮』は長島一茂さんから、それぞれ請求されている。田中家と長島家……田中角栄と長島茂雄というのは戦後の日本のスーパースター。この2人はスーパースターであると同時に、メディアにとってもありがたい人だった。なぜかというと、(2人は)どんな記事を書かれても抗議をしなかったからだ。

 (2人の)周囲が「(記事に対し)おかしいじゃないか」と言っても、2人は「記者さんはそれが商売だからいいじゃないか」という対応だった。メディアはこの2人に「甘えていた」というわけではないが、この2つの家から『週刊文春』と『週刊新潮』が同時に、出版差し止め請求をされたことは、時代のひとつの節目だったと思う。

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