『週刊文春』も危なかった……『週刊新潮』の大誤報を笑えない理由:集中連載・週刊誌サミット(4/4 ページ)
ある日……「私が坂本弁護士一家殺人事件の実行犯だ」と名乗る男が、『週刊文春』の前に現れた。その男に対し『週刊文春』の編集部は、どのような取材をしてきたのだろうか? 当時、危うく誤報を飛ばしそうになったことを、木俣元編集長が明らかにした。
『朝日新聞』と『週刊朝日』は、犯人が誰かを知っている
当時の『週刊文春』の編集長は花田さんで、非常に度胸のある人だった。(花田さんは)この記事は売れると思って120万部も刷っていた(笑)。ふだんは60万部ほどしか刷っていないのに120万部も刷って……どのようにして記事を書くのを止めればいいのか、と思った。
男が警察に出頭したという事実があったので、それを書くという手もある。しかしいろんなことを考え、「やはりこれは誤報にあたる」と判断して、引いた。つまり我々は、ギリギリのところで『週刊新潮』にならずに済んだのだ。しかし『週刊新潮』は結果的に、拙劣(せつれつ)な記事を書き、その後の流れもよくなかった。
現実問題として、(10人ほどの)チームを組んで取材に時間をかけることが、メディアの中でどんどん難しくなっている。それが何を引き起こすかというと、結局、読者の方が損をしてしまうのだ。
読者の方には「知る権利」がある。私らはすぐに「言論の自由」と言うが、言論の自由というのは本当のことを言うと「メディアにしか自由はない」と思う。そういう意味で、言論の自由というのは業界の議論でしかない。いずれにせよみなさんが知りたいと思うことに対し、(メディア)は応じられなくなっている。今のメディアの状況で、思い切って書くのは週刊誌しかない。しかし思い切って書くには裏付けが必要なのだ。
『週刊新潮』は最後のところで失敗を犯したと思うが、あの問題を「一生懸命やろう」とした姿勢は評価してもいいのではないか。もちろん、あとのことは全く別問題だ。また『週刊新潮』に対して、各メディアは厳しい攻撃をした。『週刊新潮』が攻撃されるのは仕方がないことだが、本当に大切なことは「赤報隊(朝日新聞の記者を襲撃した)の犯人は誰なのか」――これを追及することだと思う。
『週刊文春』は警察庁の最終報告書を入手して、記事にしたことがある。(最終報告書によると)いくつかのグループに本当に絞り込んでいる。しかし政治的な事情があって、それ以上は(警察も)踏み込めないのだろう。その取材をした記者は今、『週刊朝日』の山口編集長のところにいる。なので『朝日新聞』と『週刊朝日』は、犯人が誰かを知っていると思う。私の後輩や他のメディアの人たちは度胸を持って、赤報隊の犯人を名指すという記事で、読者の信頼に応えてほしい。
関連記事
- 裁判だけではない……写真週刊誌を追い込む脅威とは?
1980年代に世間をにぎわせた写真週刊誌。大手出版社が相次いで写真週刊誌に参入したが、現在では『フライデー』と『フラッシュ』しか残っていない。厳しい状況が続いている中、今年の2月に就任した『フラッシュ』の青木編集長が心境などを語った。 - 『アサ芸』を追い詰める極道、司法、部数減……。残された道はアレしかない
極道、エロ、スキャンダルを売りにしている『週刊アサヒ芸能』。他の週刊誌と同様、部数減に悩まされており、この10年で半減した。“逆風”が吹き荒れる中、元編集長の佐藤憲氏はどのような巻き返しを図っているのだろうか? - なぜ週刊誌は訴えられるようになったのか?
『週刊朝日』の山口一臣編集長はこれまで、何度も訴えられてきたが、一度も“負けた”ことがない。かつては記事のクレームに対し、話し合いで解決してきたが、最近はいきなり訴えられるという。その背景には何が潜んでいるのだろうか? - 編集長は度胸がない+愛情がない……週刊誌が凋落した理由(前編)
発行部数の減少、名誉棄損訴訟、休刊……雑誌を取り巻く環境はますます厳しくなっている。そんな状況を打破しようと、“週刊誌サミット”が5月15日、東京・四谷の上智大学で開催された。第1部の座談会に登壇した、田原総一朗氏や佐野眞一氏らは何を訴えたのだろうか? - 弾圧を恐がり、“感度”が鈍い編集者たち――週刊誌が凋落した理由(後編)
週刊誌が売れない原因は、どこにあるのだろう。そのヒントを見つけ出そうと、“週刊誌サミット”が5月15日、東京の上智大学で開かれた。第1部の座談会に登壇した、田原総一朗氏や佐野眞一氏らは何を語ったのだろうか?
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.