ある特殊な仕掛けが……当世ベストセラー事情あれこれ:相場英雄の時事日想(2/2 ページ)
「出版不況で本が売れない」といったことをよく聞くが、書店に足を運べばベストセラーが高く積まれている。しかし、あまり知られていないと思うが、こうした作品の何割かはある仕掛けが施されているのだ。その仕掛けとは……?
印税1%
実際に書籍を刊行する際に、以下のような手法を用いることもある。海外では一般的な出版エージェントを使うという手段だ。企画の売り込みや版元との煩雑な事務作業全般をエージェントが代行し、著者は創作・執筆に専念する、というやり方。
世のビジネスパーソンは仰天するかもしれないが、大手と呼ばれる出版社においても、著者が執筆に取りかかる前段階で版元と契約書を交わすケースはほとんどない。大概は担当編集者との間で交わす口約束だ。
筆者の場合、書籍が発売される直前に契約書が送られてくるケースがほとんど。連載や刊行に向けて1年以上取材やら執筆に追われた挙げ句、企画自体がボツになったことは一度や二度ではない。立場の弱い筆者はすべて泣き寝入りしたが、トラブルを未然に防ぐ意味でも、今後出版エージェントが活躍する素地は十分あると筆者はみる(コスト面での折り合いがつかず、筆者自身が使う予定はないが)。
ただ、良心的なエージェントばかりが存在するわけでもない。現在、ベストセラーとなっているある癒やし系の書籍がその典型だ。今まで全く出版とは縁のなかった著者はエージェントと契約を結び、作品は晴れて10万部超えのベストセラーになった。ここまでは明るい成功談なのだが、背後にはエージェントの存在意義を危うくするような事情があった。通常、著者の印税は10%が基本だ。しかし「(エージェントは)著者に出版の知識がないことを逆手にとり、印税の取り分をエージェント9割に対し、著者は1割としている。さすがに著者が気の毒」(別の大手版元編集者)というのだ。
駆け出し作家が力不足を棚にあげ、本が売れないと訴えるつもりはさらさらない。また、売れる本を作ろうと懸命に努力する編集者がたくさん存在するのも事実だ。しかし、昨今の出版界には、従来とは違ったいびつな側面が芽生えているのもたしかなのだ。書店のポップや派手な広告な背後に、こうした複雑な業界事情が潜んでいる。
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