元優等生の暴走族総長は、なぜ覚せい剤中毒になったのか?――杉山裕太郎さん (前編):嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(5/5 ページ)
酒井法子と押尾学……この2人の違法薬物をめぐる事件は記憶に新しい。かつて覚せい剤といえば“遠いモノ”だったが、今では学生までもが手を染める時代に。こうした状況に対し、一石を投じようといている男がいる。ライブ活動などを通じ、世直しを図ろうとしている、杉山裕太郎さんに話を聞いた。
覚せい剤中毒に陥った理由
「覚せい剤はヤクザの先輩からの紹介で関わるようになりました。覚せい剤をやったら、すごく気持ちよかったですね。私の場合は、吸引ではなくて注射を打つ方でした」と淡々と語る杉山さんであるが、それにしても、なぜ覚せい剤なのだろうか?
「単純な理由としては、ポータブルで使いやすいというのがあります。覚せい剤そのものであれ、注射器であれ、体のどこか適当なところに簡単に装着できるので、いつでも使え、いつでも捨てられるというのは利点でしたね」
心理的な理由は?
「『どうせ……』というのが原点です。どうせ親は世間体しか考えていない、どうせ誰も自分のことを分かってはくれない、どうせ自分なんて誰からも愛されることのない、世の中に不必要な存在だと言う『自己肯定感のなさ』ですね。
そういう気持ちが高じて、行き着くところまで行ってしまうと、人間は自暴自棄になり、自殺、覚せい剤、殺人などに走りがちです。私の場合は、覚せい剤だったということです」
覚せい剤を打つことによって、そうした意識に何か変化が生じるということ?
「私は、人間には『意識』と『本能』とがあると思うんです。覚せい剤を打つような人間というのは、どうせ自分なんて誰にも分かってもらえないし、世の中から全く必要とされていないという『意識』を持っているわけです。でも、その一方『オレは、本当はそんな人間じゃないんだ!』という魂の叫びみたいな『本能』が存在していて、それが心の奥底では渦巻いていると思うんです。
覚せい剤を摂取することによって、自分を抑圧している『意識』の部分が雲散霧消して、それに代わって、その『本能』の部分が表面に上がってきて、まるで、その『本能』によって体中が満たされたような錯覚に陥って、とても気持ちがいいんですよ。それは結局、一時的に逃避したに過ぎないんですが、自分というものを構築できていないので、結局、そんな方法で解決したつもりになるしかないんです」
その気持ちよさによって、行動にどんな変化が現れるのだろうか?
「自分を抑圧していたさまざまな雑念がすべて消えてくれるので、まず意識が非常にクリアになります。だから、最初は、やたらと部屋の掃除をしたりするんですよ(笑)。あと、文章が上手に思い通りに書けたり……と、いろんなことがうまくできるようになるんです。
そして、覚せい剤に慣れてくると性的な快感が強烈になります。その快楽ゆえに、もう止められなくなるんです」
そうだとするならば、覚せい剤を購入するための費用もかなりかさんだのではないかと思われるのだが、杉山さんはどんな人間から、どのくらいの価格で入手していたのだろうか?
「その当時の入手ルートは、不良外国人とヤクザ・チンピラの2ルートがありました。仕入れ値は、外国人相場だと、0.6〜0.8グラムで1万5000円くらいでした。1グラム換算で2万円ほどですね。でも、大量に持っているヤクザから買うとすごく安かったです。紙袋にいきなり10グラム以上入っているのに2万円で買えちゃいましたから。受け渡しの場所は、パチンコ屋の外とかが多かったです」
衝撃的な内容が淡々と語られる。しかし、それはまだ序の口だったようだ。覚せい剤の常習によって、その後の杉山さんの生活は、まさに“生き地獄”の様相を呈していくのである。
果たして、そこには一体、何が待ち構えていたのだろうか? そして、それをどのように克服して、更正への道を歩んだのだろうか? それを次週の(後編)で明らかにしたいと思う。
→元優等生の暴走族総長は、なぜ覚せい剤中毒になったのか?――杉山裕太郎さん (後編)
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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