カー・オブ・ザ・イヤーから見る――2009年、エコカーの位置づけ:神尾寿の時事日想・特別編(2/3 ページ)
2009-2010 日本カー・オブ・ザ・イヤー(COTY)は、接戦の結果「プリウス」に決まった。しかし選考委員である神尾氏が1位として10点を投じたのは、実はプリウスではなかったという。
プリウス VS インサイトに、ゴルフとi−MiEVが参戦
今年の本選考は、「プリウス」と「インサイト」のハイブリッドカー対決になると以前から言われていた。ふたを開けてみればその通りで、投票結果でプリウスが433点、インサイトが391点と、プリウスがまさに僅差で勝つ内容になった。開票時にはインサイトの得票数がさらにプリウスに肉薄するシーンもあり、会場内の緊張感はかなりのものだった。
しかし、このプリウス VS インサイトにも増して注目だったのが、フォルクスワーゲン「ゴルフ」と三菱「i−MiEV」の健闘だろう。
ゴルフは小排気量のガソリンエンジンから十分なパワーを得る低燃費エンジンシステム「TSI」と高効率かつスポーティなトランスミッション「DSG」を組み合わせて、ハイブリッドシステムによらず燃費性能を向上した欧州のちょっとプレミアムなエコカー。一方、三菱i−MiEVは今年から市販されたEV(電気自動車)である。
この2台にも、何人もの選考委員が10点を投じて高く評価。結果として、プリウスとインサイトの票が割れて、両車の差が開きにくいという状況に陥ったのだ。
この「混戦模様」は、まさに“クルマの世界”が変わる1つの象徴のように、筆者には感じられた。これら4台はすべてエコカーであるのだが、低燃費・環境性能の高さを得るためのアプローチが、すべて異なる。そして、そこで生み出された「走る楽しさ」「移動する喜び」といった“味”も、まったく違う。
これまでのクルマにとって、エコであることは、付加価値であり“スペシャリティ”だった。しかし2009年以降、これから10年、そして100年は、環境性能の高さをベースとして、その上にクルマの個性や楽しさが多様に広がっていくだろうと感じたのだ。
今後、“エコであること”は当たり前に
結果を見れば、今年のCOTYは「プリウス」が受賞した。プリウスの性能や魅力を考えれば、それは多くの人が納得する内容だろう。そして筆者は、多様なエコカーがトップを争ったCOTYの課程や背景に、今後のクルマ社会の潮流を見た気がする。クルマにとって「エコであること」は当然であり、その上で、個性や独創性、そして走る楽しさを競う時代になってきたのだ。
20世紀のクルマから、21世紀のクルマへ。自動車業界は未だ不況期の逆風のさなかにあるが、もしかしたらその先には、「エコカーへの移行期」という新たなモータリゼーションがあるのかもしれない。
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