週刊誌の編集部で、こんな取材をしてきた:どうなる? 紙メディア(2/2 ページ)
数々のスクープ記事で、世間を揺るがせてきた週刊誌。新聞やテレビなどとは違った切り口で報道しているが、実際にはどのような取材をしているのだろうか。元『週刊現代』編集長の元木昌彦氏が、当時の裏話などを語った。
雑誌は新聞やテレビがやらないことを、やってきた
雑誌の記者がやることといえば、似たり寄ったり。カッコよく「新聞やテレビにできないことを雑誌はやる」と言っているが、実は新聞やテレビがやらないことを考えてばかりいる。そして「こんなことはやらない」「こんなバカバカしいことはしないはず」といったことを考えているのだ。例えば殺人現場があると、週刊誌の記者は現場近くのゴミ箱をあさる。すべてのゴミをポリ袋に入れて、会社に持って帰る。そして、そのゴミを見ながら「何かないか?」と、殺人事件に関する証拠を探すのだ。また旅館の2階の部屋を借りて、その部屋から望遠レンズで加害者の家の中を撮影したりもする。
このように雑誌は新聞やテレビがやらないことを、ずっとやってきた。ちなみに私はスクープに縁がなかった。他の記者がスクープをとってくると「オレもこんなスクープをとってみたいなあ」と、ずっと思ってきたのだ。
雑誌ジャーナリズムが果たしてきた役割の1つとして、世の中を動かしてきたことが挙げられる。一番有名なのは立花隆さんが『文藝春秋』に発表した「田中角栄研究〜その金脈と人脈」だろう。これは調査報道の金字塔と言われている。雑誌の世界で調査報道やノンフィクションが報道されるようになったのは、新聞記者らが雑誌で書き始めたことが大きい。
また政治家のスキャンダル記事も、雑誌ではたくさん報道してきた。その一方で「そんなスキャンダル記事なんていらないよ」という声もある。当時、読売新聞の渡辺恒雄社長(現、会長兼主筆)に、面と向かってこのように言われた。「お前みたいな“イエロージャーナリズム”なんて、なくたっていいんだ。新聞とテレビさえあれば十分、雑誌なんていらないんだ」と。「渡辺さんそれはないでしょう」と反論したかったが、あの人は怖い人だから言えなかった(笑)。
経営者側の意識に変化
雑誌の部数の低下や損害賠償の高額化は、出版社にとって“逆風”が吹き荒れているといっていいだろう。しかし経営者側の覚悟が昔と比べ、随分変わってきているのかな、とも感じている。ジャーナリズム系の雑誌を出版するということは、いろんな批判があるのは確か。しかし我々が現場にいたころは、経営者も「鬼っ子のような雑誌だが、なんとか守っていこう」といった空気が感じられたが、今は変わってきている。
今は、週刊誌の発行を続けてもなかなか利益を確保することが難しい。部数や広告が減少し、さらに裁判で訴えられる。なので経営者側も「週刊誌を休刊しよう」といった考えになってきている。昨年『月刊現代』が休刊となったため、ノンフィクションを掲載する雑誌がほとんどなくなった。この結果、ノンフィクションを書く人たちの場がなくなってきているのだ。
週刊誌を含めた雑誌は、どのようにすれば生き残ることができるのか。また生き残っていく道はあるのだろうか。確かにこの問題は大変難しいことかもしれないが、週刊誌の役割が必要になるときは必ずやって来ると信じている。現場の人たちには“サバイバルゲーム”に勝ち残ってほしい。
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