新人賞をとっても食ってはいけない……フリーライターの懐事情:相場英雄の時事日想(2/2 ページ)
「作家になれば原稿料と印税で、悠々自適の暮らしを送れる」――。こんな夢のようなことを考えている人も多いかもしれない。しかし出版不況といわれるこのご時勢……専業作家で食っていくことは大変なようだ。
漫画界も同様だ。筆者は小説より先に原作者として作家デビューを果たしたが、肌で感じるのは、出版社の屋台骨となっていた漫画でさえ先行きは明るくない、ということ。
若者の漫画離れが著しい昨今、文芸誌や週刊誌と同様に漫画誌も急速に部数が減り、媒体の数も減った。ベテラン作家でさえ作品発表の機会が減っている。優れた新人漫画家(原作者)でも連載を持つまでには、優に1年や2年は経過してしまうのが当たり前。小説、ノンフィクション、漫画のいずれの分野でも、作品が世に出るまでは無給だ。もちろん取材や制作にかかったコストの回収などおぼつかない。
現在、職に就いている人がデビューを目指すのであれば、自身の作品が商業ベースとして軌道に乗るまでは、絶対に仕事を辞めてはいけない。睡眠不足と戦いながらの“二足のわらじ”を続ける覚悟が必要だ。
プロフィール欄にある通り、筆者は通信社の記者時代に作家デビューを果たした。きっかけは、ダイヤモンド社の第二回経済小説大賞(現・城山三郎経済小説大賞)に応募し、初めて書いた小説が幸運にも大賞に選ばれたこと。著名な先輩作家に経済ネタの提供と解説をしているうちに、「書いてみたら」と勧められ、軽い気持ちで原稿を同社に送ったのがそもそもの始まりとなった。先細りの一途をたどるマスコミ業界の収益構造を憂い、いつかは独立と考えていた矢先に、本当に幸運な形で世に出ることができた。
現状、小説と漫画原作を合わせた筆者の「作家部門」での収益は全体の7割程度。「経済ジャーナリスト」の肩書きでニュース解説やコラム執筆を手がけ、独立後3年目にしてようやくサラリーマン時代の給与水準を回復したばかり。一応、幸いにも何度か小説に重版がかかり、今後1年半は身動きがとれない量のバックオーダーをいただいている身だが、先行きを楽観視したことは一度もない。出版という業態そのものが大きな岐路にさしかかっているからに他ならない。デビューを志すのは大事なことであり、筆者がこれを阻止するつもりはさらさらない。だが、昨今はかつてないほど業界事情が苦しいことをキモに銘じておくべきだ。
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