朝日新聞の“名物記者”は、こんな人たちと戦ってきた(4/4 ページ)
朝日新聞の政治部長などを経て、2002年に論説主幹に就任した若宮啓文氏。社説の責任者を務めている間、イラク戦争や北朝鮮の拉致問題などさまざまな出来事があったが、彼はそのとき何を考えていたのだろうか。
産経新聞ワシントン支局の古森義久さんは雑誌『諸君!』で、このように批判してきた。「朝日新聞というのは異星人の人々だ。ニッポンという国がどこにもなくて、空の上から見ているような論調である」と。しかし日本のジャーナリズムは戦前に痛い経験をしたのにもかかわらず、どうしても戦争や対外的な問題になると、ナショナリズムをあおる側になりがち。よく「新聞記者は国民目線で記事を書け」といわれるが、実は国民というものは危ないのだ。国民も間違いを犯すこともあるので、ジャーナリズムはナショナリズムの道具にならないよう注意が必要。少なくともナショナリズムというものを常に意識し、「自制しないと危ないことになる」と思い続けなければならないのだ。
米国のCBSイブニングニュースにウォルター・クロンカイトというキャスターがいる。この人はベトナム戦争のときに反戦運動について書いたところ、いろいろなところから圧力がかかってきた。そしてCBSの社長は気にして、当時の国防長官とクロンカイトを呼んで、昼飯を食った。ところが国防長官は「愛国心がないジャーナリストというのはオカシイ」といった。それを聞いたクロイカントは堪忍袋の緒が切れて、猛烈に反論した。「『愛国的である』ということはジャーナリストとしての任務ではない。愛国的や愛国主義というのは、どのように定義するのか。政府の言うことをそのまま信じるのが、愛国者なのか。反戦運動をしている人も国を愛するがゆえに運動を行っている。そのことを報道することが、どうして反愛国になるのか」といったことを書いている。
日本では靖国参拝問題は下火になり、イラク戦争については “誰が間違っていたか”ということが明確になった。こうした経緯を経て、米国と日本では政権交代が行われた。世論は右にブレはしたものの、いまの状況を見る限り、救いはあるかなとも思っている。
亡くなられた筑紫哲也さんは日記にこのようなことを書いていた。「いまジャーナリズムをめぐって起きていることを踏まえ、その未来を信じられる者がいるとしたら、その人はよほど愚鈍であるか、よほどの楽天主義者である。しかし幸か不幸か、この年齢にして私はその両方の部分(愚鈍と楽天主義)を失っていない」と。私も筑紫さんの考えに近いところがあって、あながち悲観的に物事を考えてはいない。
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