元朝日新聞の本多勝一が語る、衰退するメディアと取材の方法(後編)(3/3 ページ)
購読部数や広告収入の減少により、苦境に立たされている新聞業界。紙面はいわゆる“発表モノ”が増えている一方、ルポルタージュはめっきり減った。こうした状況に対し、かつて朝日の“スター記者”と呼ばれた本多勝一氏はどのように見ているのだろうか。
なぜこうした悪循環が起きているかといえば、新聞記者の採用の仕方にも問題があるのではないだろうか。いわゆる“学校秀才”の人ばかりを集めていてはダメ。ニューヨーク・タイムズなどは、よく新聞記者の引き抜きを行う。よく「新聞社も引き抜きをした方がいい」といった意見も聞くが、すべての新聞社が行うことは難しいのかもしれない。しかし私が尊敬していた疋田桂一郎記者は、朝日新聞に引き抜かれた。大学を卒業したばかりの人が、ジャーナリストとしての力をすぐに発揮することは難しい。なので新卒の人を育てるよりも、もっと引き抜きを増やしてみてはどうだろうか。また力のある新聞記者は、それなりの給与を支払うべきだろう。私のように安月給のままではなく……(笑)。
――映像が入りにくい現場とはどんなところなのでしょうか?
映像に映すことができないことはたくさんある。例えば現場で取材をしても、話を聞くだけではなかなか“絵”になりにくい。しかしルポルタージュであれば、可能だ。新聞はそうした部分にもっと力を入れるべきではないだろうか。映像ではかなわない部分に力を入れるべきだろう。
――これまでたくさんの方に取材されてきたと思いますが、話を聞くうえで心がけていることは何でしょうか?
まず相手の人が話しやすい雰囲気を作りだすことが大切。新聞記者でも自分ばかり話し続ける人がいる。これは逆効果だと思っている。こちらがしゃべり続けていると、相手は話すことができない。なるべく相づちなどをうったりして、あまり自分から話しかけないほうがいい。
また偉そうに聞く人もいる。「オレは新聞記者だ」といった感じで、偉そうな振る舞いを行う。これは非常によくない。むしろ小さくなって、話を聞くほうがいいだろう。
技術的な話をすると、絵が描けるように聞いていくといいだろう。1枚の紙に、絵を埋めるようにして話を聞く。そうすれば状況が再現できるからだ。例えば空や電柱にはどんな色を塗ればいいのか、などを聞いていき、どんどんその状況を埋めていけばいい。頭の中で絵を描きながら、話を聞いていくと、そのときの状況を再現しやすい。
ただ新聞記者の中には、絵を描けない人がいる。こういった人はどうしようもない。絵を描けないタイプは、どういった状況かを再現することができないのだ。
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