主語を「円」から「ドル」に……そうすれば何かが見えてくる:相場英雄の時事日想(2/2 ページ)
急激な円高は「日本経済にダメージを与える」といった報道が展開されがちだが、本当に「円高=悪」なのだろうか。記事の主語を「円」から「ドル」に変えるだけで、意外なことが見えてくるかもしれない。それは……?
大企業救済が狙い?
昨年からのドル急落局面では、「円高で企業業績の下方修正ラッシュが起こる」――。こんな悲観的な記事も続出したが、本当にそうなのだろうか? しかし紋切り型の記事ばかりでは、本質を見誤ってしまうと筆者は危惧している。
ドル・円相場が急落した際、実際に米国向けの輸出比率が高い企業は手取りの円が目減りしてしまう。だが、これは本当に現在の日本の姿を映したものなのだろうか? 以下に示す様なデータはあまり主要メディアの経済面ではお目にかかる機会がない。
「日本の主要企業の対米向け輸出は全体の2割程度に減り、6割近くがアジアなど新興国向け。急激な“円高”局面でも輸出全体の量はさほど減っていない」(銀行系証券エコノミスト)。
すなわち、主要メディアが総悲観で伝える“円高”は、日本のお家芸である輸出を大きく阻害していないのだ。「新興国向けの商品がドル建てであっても、需要が強いので商品価格に転嫁した措置で賄える」(商社関係者)という実態はほとんど伝えられていない。
筆者のようにへそ曲がりなモノカキにとって、昨今の“円高恐怖論”は、対米輸出比率の高い、一部の自動車や電気などの大企業の救済策のように思えてしまう。
ドルの信認低下という観点からみると、米国政府は時価会計の導入を先送りし、民間銀行の窮地を救った。肝心の財務内容は、一昔前の日系金融機関同様に痛んだままだ。日本の不良債権問題の解決がダラダラと長期化したように、米国の金融システム不安の解消にも時間がかかる。その間、ドルは度々下落圧力にさらされよう。その際、日本のメディアが報じる「円」ベースの記事ではなく、「ドル」を主語に据えて記事をナナメ読みすると実態がより分かりやすく見えてくる。
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