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インタビュー

なぜ無酸素で8000メートル峰を登るのか――登山家・小西浩文新連載・35.8歳の時間(6/6 ページ)

世界には8000メートル超の山が14座存在している。酸素と気圧は平地の3分の1、気温は平均マイナス35度の世界に、登山家の小西浩文氏は無酸素で頂上を目指している。なぜ彼は危険を冒してまで、山に登り続けているのだろうか。

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 その誓いを果たすため、翌年、私は8000メートル峰を3つ(エベレスト南東稜8848メートル、ダウラギリ1峰8167メートル、ガッシャーブルム1峰8068メートル)を無酸素で登りました。36歳のときです。ロブサンのために登り続けるしかない、と思っていましたが、そのときの私は少しヘンでした。「ここで登れなかったら、ロブサンの死がムダになる」――といった思いで登っていたのですが、そんな思考でまともな判断ができるわけありません。無理をして登頂を目指していたため、そのときのパートナーは酸素不足からパニック状態になってしましました。

 ひどい状態の私に、ある人はこう言ってくれました。「また来年登ればいいだけの話じゃない」と。ロブサンを失ったことは本当に悲しいことですが、自分にはまた来年があると、そう思うことにしました。いま振り返ってみると、35〜36歳のときの私は死に向かっていました。しかし同時そのベクトルが、生へと導かれた瞬間でもありましたね

人間社会に貢献したい

 いまは人間社会に貢献したい、という思いも強いですね。もちろん8000メートル峰の14座を無酸素で登頂するという気持ちも強いのですが、高い山に登り続けているだけでは人への影響は少ない。なので登山を通して得た勇気や慈愛といったものを、1人でも多くの人に伝えていきたいですね。

 私は山に登ることしかできない人間かもしれません。しかしその山を通して、少しでも社会に貢献できれば、生まれてきたかいものあるのかな――最近はそんな風に考えています。

――2009年12月時点、小西と一緒に山を登り、亡くなった人の数は50人を超えた。(本文:敬称略)

小西浩文氏の登山歴

年度 国/地域 山名 標高 記録
1982 パミール コルジェネフスカヤ 7105m 登頂
  パミール コミュニズム 7495m 登頂(連続)
  中国 シシャパンマ 8012m 無酸素登頂
1984 パキスタン ナンガパルバット 8125m ディアミール壁7600m到達
1985 米国 マッキンリー 6194m 登頂
1986 ケニア ケニア山 5199m ダイヤモンドクロワール登頂
タンザニア キリマンジャロ 5895m ヘイムグレイシャー登頂(日本人初)
1987 ネパール ピサンピーク 6091m 冬季単独登頂
パミール レーニン峰 7134m 登頂
ネパール ダンプピーク 6012m 単独登頂
1989 旧ソ連 ハンテングリ 7010m 登頂(日本人初)
1991 パキスタン ブロードピーク 8015m 無酸素登頂
1992 パキスタン ガッシャーブルム1峰 8068m 7300m到達
パキスタン ガッシャーブルム2峰 8035m 無酸素登頂
パキスタン K2 8611m 7200m到達
中国 チョーオユー 8201m 無酸素登頂
1996 ネパール カンチェンジュンガ 8586m 無酸素登攀8400m到達
1997 ネパール エベレスト南東稜 8848m 無酸素登攀7500m到達
ネパール ダウラギリ1峰 8167m 無酸素登頂
パキスタン ガッシャーブルム1峰 8068m 無酸素登頂
1998 ネパール アマダブラム 6812m 登頂(ガイドとして)
1999 ネパール パルチャモ 6280m 冬期登頂(ガイドとして)
2000 ネパール メラピーク 6450m 登頂
2002 ネパール マナスル 8163m 無酸素登攀7700m到達
2004 ネパール アイランドピーク 6160m 登頂
2005 ネパール アイランドピーク 6160m 登頂
2006 ネパール マナスル 8163m 無酸素登攀7000m到達

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