beirette vsn 2、写りは“オモチャ”じゃなかった:-コデラ的-Slow-Life-
ジャンクコーナーで見つけた「beirette vsn 2」。作りはオモチャレベルだったが、撮影してみるとそのシャープな写りに驚いた。
CARL ZEISS JENAのロゴがプリントされたbeirette vsn 2。作りはまったくのオモチャレベルで、ちゃんと撮れるのか実に怪しい。だが同じようなLOMOのLC-Aなどは、そのダメダメな写りが「逆にカッコイイ」ということになって、10年くらい前に大ヒットした。「ダメはダメでも、モノは考えよう」ということである。
→ZEISSのトイカメラ? 「beirette vsn 2」
撮影はISO 100のフィルムで行った。本体にはそれ以上の感度設定がないので、それ以外の選択肢はない。最近はISO 100のフィルムも特売品のようなものが出尽くしたのか、まともに買うとISO 400より高くつく場合もあるのは困ったものである。
レンズは45ミリと昔の標準レンズよりもやや広いぐらいだが、スナップにはちょうどいい画角である。いざ現像から上がってみた写真を見ると、四隅の露出の落ちなどもなく、非常にシャープに撮れるレンズであることが分かった。ボディはちゃちだが、レンズは本物のようだ。これはいい買い物をした。
逆光にも意外と強く、あまり破たんしない。F8くらいまでならパンフォーカスにはならず、ちゃんと深度があるというのが面白い。F16まで絞ると、かなりきっちりした描写となる。開放でどんな絵になるか試したいのは山々ではあるが、シャッタースピードが1/125秒までしかないので、ND(減光)フィルタでも使わない限り、日中ではほとんどF8以上開けられないのが残念である。
露出に関しては、レンズ周りに書いてあるお天気マークを頼りに撮影すると、ほとんどがF16でシャッタースピード1/125秒となる。露出計の結果と比較してみると、2絞りぐらい暗いはずだが、普通に上手く撮れている。もしかしたら、シャッタースピードが数値より少し遅いのかもしれない。夏場はさらに光量が増すはずなので、またその時は案分してやる必要があるだろう。とはいっても、後はもう絞りを最小のF22まで絞るくらいしか方法がないのだが。
手ブレしやすいのは宿命?
写真をよく見ると、どのカットも上部に少し光漏れがあるようだ。ボディと裏ブタの間はどこにもモルトを使った遮光が施されていないので、まあそのあたりから漏れるのだろう。あとでモルトを貼っておくとしよう。
参考資料には「大変手ブレしやすい」とあったので、かなり注意して撮影したつもりだが、やはりシャッタースピードを1/60秒以下に落とすと、手ブレの影響が出てくる。
手ブレの原因は、まず本体が軽すぎることが大きいが、それ以上にシャッターボタンが押しにくいことにある。カメラ上部ではなく、前面にあるものを下げるので、どうしてもカメラが下向きに動いてしまう。
特に本機のシャッターボタンは、押し下げていくと最初のひっかかりで何かのロック機構が外れ、その後実際にシャッターが切れるようになっている。この最初のひっかかりが非常に堅いので、次にやってくる軽いシャッター動作時に勢い余ってブレてしまうようだ。
いろいろ持ち方を工夫してみたが、右手人差し指はカメラの固定に回し、シャッターボタンを中指で押すようにすると、多少安定するようだ。だがやはり、カメラ前面にシャッターがある構造は、歴史を見るとあまり成功しなかったようである。
同様の位置にシャッターがあるカメラとしては、リコー オートハーフの初期型が有名だが、これも2世代目からは上部にシャッターボタンを移している。一眼レフではトプコンあたりが有名なところだが、あまりその構造は支持されていないようだ。
そもそもなぜこの位置にシャッターボタンがあるかといえば、レンズシャッターの場合はこのあたりにトリガー機構があるからである。押し込み動作をあまり連結しないでシャッターを切らせるためには、都合が良かったわけだ。その原型はZEISS CONTESSA 35あたりの構造に見ることができる。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
関連記事
- -コデラ的-Slow-Life- Vol.88:意外に難しい? beirette vsn 2の分解
ジャンクコーナーで見つけた「beirette vsn 2」。ファインダーの汚れが気になったので、掃除するため分解してみることにした。 - -コデラ的-Slow-Life- Vol.87:ZEISSのトイカメラ?
カメラ屋のジャンクコーナーで発見した「beirette vsn 2」。共産圏の安いカメラの典型的な特徴が出ていて、とことんまで機能が削られていた。 - -コデラ的-Slow-Life- Vol.86:予想外に手堅い描写、FED F3.5/50ミリ
旧ソ連製のカメラZORKI-4にFED F3.5/50ミリをつけて撮影してみると、そのシャープな描写力に驚いた。 - -コデラ的-Slow-Life- Vol.85:常識の斜め上をいくZORKI-4の操作
ジャンク扱いで入手した旧ドイツ製カメラの「ZORKI-4」。とにかく回すところだらけという構造だったので、仕組みを把握するために回りそうなところを回していくことにした。 - -コデラ的-Slow-Life- Vol.84:旧ソ連製カメラの掘り出しもの、ZORKI-4&FED F3.5/50ミリ
ドイツカメラの正当な継承者ではあるものの、設計技術が伝わらなかったことなどから、当たり外れが大きくなっている旧ソ連製カメラ。筆者が3年以上前に手に入れたZORKI-4は当たりの部類だった。 - 「-コデラ的-Slow-Life-」記事一覧
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.