「国費留学した官僚の退職は許せん!」と憤るあなたへ:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
国費留学した官僚の退職を防ぐために制定された「国家公務員の留学費用の償還に関する法律」。それが功を奏して、施行後の退職者数は減ってきていますが、ちきりんさんは「国費留学生の退職は日本にとって本当に悪いことなのか?」と問いかけます。
大企業でも同じ問題が
ところで、こういった「派遣留学制度」は、国家公務員だけではなく大企業にも存在しています。公務員の場合と違い、資金が税金ではないのであまり問題になりませんが、民間企業でも留学後に辞めてしまう社員は少なくありません。
彼らが留学後に辞めてしまう理由の1つは、企業側が留学生が学んできたことに期待しておらず、留学中の学びが帰国後の業務で生かせないからです。極論すれば霞ヶ関も大企業も、この制度に期待しているのは“新卒採用を有利に進める”ことであって、彼らの学びを経営や組織運営に生かすことは最初から考えていない、と思える場合さえあります。
さすがに今はそんなところはないでしょうが、ひと昔前の銀行などでは「留学帰りは米国かぶれしているから、帰国したらまず田舎の支店で働かせてアクを落とさせる」というような辞令を出すこともあったと聞きます。
そんなことでは、留学して帰ってきた若者の多くが気持ち的に腐ってしまいます。「税金の無駄遣い」とは、国費で留学した若手公務員が転職してしまうことではなく、どうせ使う気もない知識や経験を得させるために国費で留学させること自体であったり、せっかくの学びを得て帰ってきた人材を、その能力や学びを生かせるポジションに付かせないことの方なのではないでしょうか。
「何が税金の無駄遣いなのか」「どうなれば税金は有効に使われていると言えるのか」。国費留学生が辞めなくなったということに喜ぶだけでなく、別の視点からもう少し深く考える必要があるのではないかと思いました。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。
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