ゴーストライターは貧乏? いま原稿料を明らかに:吉田典史の時事日想(4/4 ページ)
ビジネス書の9割はゴーストライターが書いている――。前回の時事日想ではこのことを紹介したが、今回はゴーストライターの“ギャラ事情”を解説。1冊の本で、彼らは一体どのくらいのお金をもらっているのだろうか?
運命の別れ目が「増刷」
ここで大きな分岐点を迎える。本が売れると、そのときは増刷になる。主要出版社は通常、増刷は1回(1刷)が2000冊、中小出版社は1000冊と2000冊のパターンに分かれる。なお、初版は主要出版社が6000〜1万部、中小出版社は3000〜7000部の間が多い。ごく一部に2000部というところもある。
ここで、先ほどのケースをもとに、2000部増刷ということで計算してみる。
定価(1500円)×部数(2000)×印税(3%)=9万円
まとめの計算をしてみよう。
定価1500円で、初版部数6000部、印税3%、原稿料50万円。そして増刷で5刷(5回増刷、1回の増刷で2000冊)の場合、次のようになる。
初版時:定価(1500円)×部数(6000部)×印税(3%)=27万円+原稿料50万円=77万円
増刷時:定価(1500円)×部数(2000)×印税(3%)=9万円×増刷回数5回=45万円
合計=122万円
ただし、いまの時代にこれだけ増刷をするビジネス書は相当に少ない。その多くは、増刷にならない。初版のみなら、2カ月ほどかけて書いた200ページの対価は、印税だけなら27万円、原稿料を追加しても77万円。ゴーストライターが1冊の本を書いて得られる収入は、この程度でしかないのだ。
出版社は、増刷にならないと利益がなかなか出ない。初版で終わる場合、売り上げがその8割は超えないと、編集者の人件費も出ていない。だから、日本語を書くことができなくとも、知名度やブランド力があり、売れる人を著者に起用する。仮に著者が「自分が書いたことにしたい。ライターの名前を本の後に書いたりするのをやめてほしい」と言うと、芯のない編集者はそれに従う。特に経営者やコンサルタント、芸能人に目立つという。
出版社には少数だが、良識派もいる。ある編集者が著者である経営者にこう言った。「ゴーストライターにも著作権がある。名前を消すなんて私はできない」。私は横で聞いていて、震えるように感動した。
私が知る数十人のゴーストライターの年収は、同世代の会社員(上場企業の管理職・課長級)のそれと比べると、かなり少ない。しかし、ごくまれに例外が現れる。それは、100万部以上売れたミリオンセラーの本のゴーストをする場合である。どのくらいの収入が入るかは……計算していただければ想像がつくだろう。
関連記事
- 約9割のビジネス書は、ゴーストライターが書いている
ビジネス書を読んだことがあるという人も多いだろう。しかしビジネス書の多くは、 “ゴーストライター”が書いていることをご存じだろうか。ある大手出版社の役員によると「約9割はゴーストライターが書いている」という。 - なぜ30代前半になると、“ゆきづまって”くるのだろうか
30代前半の社員と話すと「この人は優秀だな」と思う一方、「この人はひどい」と感じることはないだろうか。もちろんどの世代にもいえることだが、特に30代前半はその差が大きく感じる。そこで彼らの特徴を調べてみると、ある共通点が浮かび上がった。それは……。 - どっちが優秀なの? 人事異動が多い人と少ない人
人事異動のシーズンになると「異動の回数が多い人が優秀、少ない人はダメ」といった話が出ることも。しかし、こうした風評は事実なのだろうか。今回の時事日想は、人事異動に詳しいコンサルタントの話を紹介しよう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.