報道記者の“メモ”について、考える:相場英雄の時事日想(3/3 ページ)
「記者が政治家とのやりとりを記したオフレコメモが不正に扱われている」といったニュースが話題になっている。この「メモ」とは一体どんなものなのだろうか。今回の時事日想は、業界のメモ事情を紹介する。
記者1人ひとりが集めたこうしたメモは、キャップや担当デスクのもとに集められ、事件や取材テーマの局面ごとに重要な資料として用いられることになる。
例えば、新聞やテレビの記事の中で「〜〜とみられる」の「みられる」を削除し、記事の断定口調の記事にブラッシュアップさせるために、記者の間で蓄積されたメモは貴重な手掛かりとなるわけだ。また長期間の取材を経て、他社を出し抜くスクープを放つ際は、こうしたメモを参考にドキュメント記事を執筆したりもする。
筆者が長年ストックしてきたのは、先に示したような経済部の体裁のメモ。社会部には地検担当や警視庁捜査一課長のメモが存在し、政治部には官邸首脳、与党首脳などのメモが大量に蓄積されている。
読まれるための「メモ」と本当の「メモ」
現在、ネットメディアを中心に話題を集めている永田町界隈のメモだが、筆者が想像するに、これは完全に「読まれることを前提にしたメモ」なのだ。筆者も経験があるが、キャップ、あるいは担当デスクに情報を上げる際、これが社内の内通者を経て取材元に逆流したり、はたまた週刊誌など他メディアに流出するリスクを真っ先に想定する。そうでなければ、大事なネタ元を保護できないからだ。肝心なメモは、本来他人には一切見せない……「墓場まで持っていく」という類いのものなのだ。
特に政治部の場合、多くの政治家や秘書の間をこまめに回り、「メモを書くことが仕事」となっている要素が多い。このため、「記事と同様の扱いのメモと、本当に重要なネタが記されたメモは厳格に区別している」(大手紙与党担当者)向きが多い。
筆者自身に政治部での取材経験はないが、経済ネタと政治家の判断が絡むような局面で何度か政治家の発言を記した「本当のメモ」に接した。当然、これらは現在も「オフレコ」のシバリが生きているため、本欄で記すわけにはいかない。が、巷間で騒がれている某元政府高官が閲覧していたメモとは、明らかに中身の濃さが違うのだ。
メディア界には、今も昔も記事にできない内容を記したメモが存在する。もし読者が記者に取材されるような機会があり、「オフレコ」とシバリをかけ、これが記事にされないような場合でも、しっかりとメモが蓄積されていることを肝に銘じておく必要がある。
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