カスタマイズの罠:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
ショッピングサイトなどでは購入履歴や閲覧履歴をもとに、“ユーザーの好みにマッチしている”とサイト側が判断した商品をお勧めされることがある。だが、ある程度、自分の好みにあったものが手に入りやすくなる一方、失ってしまうものも多いかもしれない。
過去に関心があったことしか、将来も関心がないわけではない
というわけで、
1.プログラムが単純で閲覧情報も偏っているため、「パーソナライズされた情報が、画一的である」という皮肉な事態になっている
2.ユーザーの視野を狭くしてしまい、新たな学びの機会を積極的に奪っている。
という2つの理由において、これらの機能があまり好きになれないのです。さらに、個人情報保護が気になる人もいるでしょう。株式を売買しようと楽天証券にアクセスしたら、「今日もうけたお金で、先日楽天市場で迷いに迷ったあげく買わなかった高級牛肉を買いませんか?」みたいな広告が出てきたらぞっとしそうです。
ネットは自分の関心のある分野をとことん深掘りするのに非常に便利なツールです。紙の情報と違って、簡単に好みの情報だけを抽出し集めてこれます。そういう便利さや価値はもちろんすばらしいと思います。一方で、画面に映った世界が「自分自身の過去の好みによって生成された偏った世界なのだ」という意識が希薄になると、誤った世界観を持ってしまう可能性があるし視野も狭くなります。各人が“自分向けに提示された世界”を、世の中一般の人の世界だと考えてしまったら、互いのコミュニケーションにも齟齬(そご)が生まれるでしょう。
せっかくこれだけの情報があふれているのですから、「自分の知らないこんな世界があったんだ!」という機会と遭遇できることこそネット世界の醍醐味のはず。というわけで、ちきりんは自分でカスタマイズするかどうか選べる場合はほとんどカスタマイズしません。自分が過去に関心があったことしか、将来も関心がないわけではありません。今まで関心がなかった何かに気付けることこそ、この情報の海を自在に扱える時代のメリットだと思うからです。
というわけで、また来週!
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。Twitter:@InsideCHIKIRIN。
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