釧路川をカヌーで下り、生態系のことを考える:松田雅央の時事日想(2/2 ページ)
湿原の広さは「日本最大」といわれている釧路湿原。釧路川とその支流にはタンチョウなどの水鳥をはじめ、多くの野生生物が生息している。今回の時事日想は釧路川をカヌーで下りながら、現地の様子をリポートする。
ラムサール条約登録が契機
ラムサール条約は湿地の保護を目的とする国際条約で、名称(通称)は条約が作られたイランの都市「ラムサール」に由来する。戦後、釧路湿原のタンチョウ保護はある程度の成果を得ていたが、依然として野生動物の生息環境悪化は進んでおり、その状況に危機感を持つ有識者や市民らの活動が続いていた。1980年のラムサール条約登録はその活動成果の1つであり、これを契機として国内でも釧路湿原が一気に注目を浴びるようになった。
1987年には湿原周辺を含む約2万6861ヘクタールが国立公園(釧路湿原国立公園)に指定され、開発は厳しく制限されている。湿原の開発よりも保全に重点が置かれるようになり、国土交通省や環境省などによる「釧路湿原自然再生プロジェクト」による自然再生事業が進行中だ。高台から見るとよく分かるが、湿原にはハンノキの林が広がり湿原は減少の一途にある。土地の乾燥化の表れで、湿原上流部では土砂の流入を防ぐための工事が続けられている
自然と向き合う
鈴木さんは釧路川カヌーのガイドのほかに釧路湿原ネイチャーガイドの資格も持つ。釧路湿原を訪れる人に自然を紹介し、自然を体験してもらうネイチャーツーリズムに携わりながら自然保護にも取り組んでいる。
自然保護には確固としたルールが必要だ。自然保護官が権威を持ち、市民に自然との接し方を教えるほか、罰則権限を持つ国もあるが、日本はどのようになっているのだろうか。
「国立公園内で釣りをしている人に注意することもあるんですが、ネイチャーガイドに強制力はありません。昔はボートで上陸しキャンプしている人もいましたよ」。釧路湿原のことを学び、常にそこで活動するネイチャーガイドこそ保護官的な役割を果たすのに最適だと思うのだが。
違法な釣り人から「カヌーだって鳥や魚の生態系を乱しているじゃないか!」と居直られることもあるそうだ。確かに自然と人との関わり方には議論があり、「国立公園内に入ること自体がダメ」とする考え方もある。しかし自然保護のためには多くの市民に関心を持ってもらい、自然に親しんでもらうことが大切だろう。
足跡を残すことも騒音を出すこともないカヌーの利用は、おそらく最も野生動植物への影響が少ないエコロジカルな自然の楽しみ方だ。タンチョウの親子を邪魔しないよう、我々のカヌーも静かに下流へと舳先を向けた。
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