もし『踊る大捜査線』の青島刑事が上司だったら:吉田典史の時事日想(3/3 ページ)
テレビや映画で『踊る大捜査線』のシリーズを見たことがある人も多いはず。現在上映されている映画では、織田裕二さん演じる青島刑事が出世し、部下を持つことに。そこで「もし青島刑事が上司だったら……」と考えてみた。
良くも悪くも、こういう柔軟な職務構造の職場は社員間の助け合いが盛んになる傾向がある。それが、日本企業の伝統的な強さといえる。しかし、それがときに人間関係のあつれきに発展したりする。そこで求められるのが、青島刑事のような“よき兄貴分”的に、古い言葉を使うと「人情親方」として部下をなだめたりして、組織を丸くおさめる手腕が必要なのだ。これは実に難しいことなのだが、青島は少々てこずりながらも、よくできていた。このあたりをぜひ注意深く見てほしい。
もう1つ、考えなければいけないことがある。日本企業の管理職の権限は、依然として弱いということだ。例えば、米国企業のように課長になった人がAという部署から○○を引っ張ってきて、Bから○○を呼んでといったことは、日本ではまだできていない。一部の会社では、最近、管理職にこういう権限を与えているが、全体から見るとそれはまだ少ない。
こう考えると、管理職は自分が評価していない部下や話もしたくないような部下を率いて組織を動かしていかざるを得ないのである。ここに、青島のような人間関係処理能力が求められる一因があると私は考えている。
例えば、PC好きの若手刑事と接するときに、青島は苦笑いをしたりする。自分が思い描いたように動かないから、困っているのだろう。しかし、決して怒ることはない。ましてや、人事異動で追い出しをすることもしない。むしろ、その刑事の持ち味を引き出していく。こういうことはさぞかしストレスがたまりそうなものなのだが、青島は淡々とこなす。その意味で、会社員にとって役に立つと思えるのだ。
日本企業の組織の特徴を前述したが、次に挙げるものも一部の学者が指摘するところである。やや誇張されているかもしれないが、誤りではないと思う。このような特徴があるがゆえに、管理職になる人には部下の掌握術や、職場の人間関係処理能力が求められるのではないだろうか。
各自に割り当てられる仕事の量、ノルマ、勤務場所、勤務する部署なども柔軟に弾力的に決められる。それらに対し、社員が明確に拒否することはなかなかできない。
こういう職場では、どうも「正直者がバカをみる」ようになると思う。青島刑事が上司ならば、部下が抱え込むこういう不満をどのように聞くのだろうか。そして、何を話すのだろう。そんな思いを感じた映画だった。
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