「朝日、オリコン、裁判所」ともあろうものが。:35.8歳の時間・烏賀陽弘道(7/7 ページ)
40歳で、朝日新聞社を退職した烏賀陽弘道氏。その後はフリージャーナリストとして活躍してきたが、雑誌にコメントしただけで損害賠償を請求されることに。彼の人生を振り返るとともに、オリコンそして裁判所に“勝利”した男の声を記録した。
――オリコンは2009年7月、東京高裁に「請求放棄」を表明した。請求放棄とは「自分の訴えに理由がないこと」を認める手続き。つまりオリコンは一方的に敗北を宣言し、勝手に自滅した。
33カ月間にも渡ってボクを苦しめたこの裁判は、オリコンの“完敗”で終わった。「こんなみっともない負け方をするくらいなら、何のために提訴したのか?」と考えると、ものすごく腹が立ちますね。
しかしこの裁判を経験し、いろいろなことを学びました。都合の悪い意見や批判を封じるための嫌がらせ提訴のことを、欧米では「SLAPP」(strategic LAWSUIT against public participation)と言います。米国(28州・地域)ではその被害を防ぐ法律があります。しかし日本には米国のような反SLAPP法が存在しません。「嫌がらせ提訴をこのまま野放し状態にしておいていいのか」――ボクはそのことに注目していて、近い将来、SLAPPの現状や問題などを本にまとめるつもりです。「インターネットと言論の自由」も次の本のテーマとして待っています。
オリコン裁判で失ったものはたくさんあるのですが、その一方で得たものもあります。その1つは「烏賀陽さん、何か力になりますよ」「烏賀陽さん、無償でいいから動きます」という友人がたくさんいてくれたこと。カンパを集めてくれたり、裁判に関するWebサイトを立ち上げてくれたり。「なぜこんなにたくさんの人が助けてくれるのかな」とよく考えました。自分はそんなに立派な人間じゃない。きっとこれまで地道に仕事をしてきたからだろう……それくらいしか思いつきませんでした。
思い返せば、朝日新聞社を辞めたときもそうでした。「会社、辞めたんだって? 生活大変だろうから、ちょっと手伝ってくれない?」と声をかけてくれる人がたくさんいました。ボクは敵をつくりたいとは決して思いませんが、この仕事をしていると人を批判することは避けられない。なので必然的に恨みを買ってしまうんです。でも同時に、助けてくれる人もできる。ボクは人をだましたり、利用したり、裏切ったりは絶対にしなかった。ひょっとしたらそのおかげで、土壇場に追い込まれようとも、孤独にならなかったのかもしれません。(本文・敬称略)
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