日本商品がやたらとオーバースペックである理由:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
高性能、高品質で知られる日本商品。しかし、時として日本商品が“やり過ぎ”なほど高い品質となっている理由はどこにあるのだろうか。ちきりんさんは“イノベーションのジレンマ”という言葉をキーワードに解説する。
オーバースペックゾーンでの戦い
具体的には携帯電話のカメラが500万画素から700万画素になるとか、本体の光沢が今までになかったレベルだかといった話です。まさにオーバースペックゾーンでの戦いですよね。もし途中でiPhoneが開発できればドンとそっちに飛べるのに、そういう商品が出せないので延々と細かい改善を続けることになるのです。
自動車なら、プリウスを開発すると商品Aから商品Bにジャンプできるものの、そうでないと、ガラスが紫外線をカットするタイプになって日焼けしないとか、シートが抗菌仕様などといったレベルでの勝負に入ってしまいます。
工業商品だけではありません。批判されることの多い道路公団や国土交通省の人も、ほかに意義ある仕事があればそちらを優先するでしょう。しかしそういった“高い価値のある仕事”は高度成長期に比べて激減しています。だからといって公務員はクビにならないので、仕事がなくても何かしなくてはいけない。そこで「日本全国の道を順番に掘り返して、舗装でもやり直そう」みたいな話になってしまうのです。
農産物でも果物や野菜の“形や大きさを揃える”というレベルで差別化しようという話になるのは、画期的に商品価値をあげる方法を思いつかないからですよね。
このように、「イノベーションが起こせないから、旧態依然とした既存の仕事を延々細々と改善し続ける」という事態は、商品開発だけでなく日本のあらゆる組織、場面で行われています。
“改善”に逃げる日本企業
一方、株主の利益要求圧力が高い米国では、オーバースペックゾーンでの競争を延々と続けることは不可能です。そんなことをしていては十分な利益が得られないので、経営者はすえ変えられ、余分な技術者はリストラされてしまいます。挙げ句の果ては企業自体が身売りされたり、消滅させられます。
ところが日本企業は解雇がしにくいし、赤字になっても経営者は厳しく責任を問われません。自社を身売りするという決断をする経営者もほとんどいません。だから延々とオーバースペックゾーンでの競争を続けるのです。「ネギが縦に入るから長持ちする」とアピールする冷蔵庫のCMを見た時は、さすがに唖然とさせられました。
というわけで、日本の商品がやたらとオーバースペックである理由として、細かいもの好き、高機能好きの国民性もないとは言いませんが、やはりそれだけではないでしょう。
高度成長時代にはテレビや冷蔵庫、掃除機、炊飯器、電子レンジ……と、次々に新しい商品が開発され、そのころは日本の商品も“オーバースペック”に走ってはいません。むしろ人手は足りない時代ですから、メーカーの開発現場でも「よし、炊飯器の改善はもういいから、次は炊飯ジャーにかかれ!」とか、「テレビはもういいから、次はビデオだ!」という感じだったでしょう。
今、日本の供給者の多くは、既存商品の改善以外に何の付加価値も創造できていない状態、つまり定期的なイノベーションが引き起こせない状態に陥っています。そして、それこそがオーバースペックな商品を街にあふれさせている原因だと思います。
“革新”“創造”ができないから、“改善”に逃げる日本企業。“改善”は決して日本のお家芸、競争力の源泉などではないのです。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。Twitter:@InsideCHIKIRIN。
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