官僚の手で、産業構造を変えることができるのか:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
保守党と自由民主党の連立政権になった英国が、大胆な改革を打ち出している。財政赤字に苦しむオズボーン財務相は、ほとんどの省庁の予算を25%カットするように求めた。一方の日本も財政難にあえいでいるものの、英国のような改革の動きが見られない。
もっとも英国のキャメロン政権が考えているのは、財政支出のカットと増税による財政再建ということだけではない。エコノミスト誌によれば、市民参加によって国の役割を縮小しようという大胆な発想だという。例えば学校の運営を父兄会に任せる、いわゆる家庭医がNHSを運営する、あるいは警察のコミッショナー(地方警察の最高責任者)は地方の選挙で選ぶなどが議論されている。
英国の、注目するに値する実験
日本でも地方分権(民主党は地方主権という言葉を好んで使うが)がしきりに言われているが、根本的には中央が地方に権限を分け与えるという思想が根本にあって、英国ほどラディカルではない。
それに菅総理が言う「税金も使い方によっては経済成長を促進する」という姿勢は、政府の役割を決定的に縮小しようという英国の方向性とは全く違うものだ。
ある官庁エコノミストがこれについて「政府が民間よりもうまくやる可能性はあると思う」と言っていた。確かに時によってはその通りである。実際、戦後の経済復興は官僚の主導によって行われ、MITI(かつての通商産業省)の名を世界に知らしめた。しかしそれは何をやればいいかについて、社会的な合意がそれとなくあるときに限られる話だと思う。今の日本は、官僚が主導して産業構造を変えるというのは無理な相談だ。前例もモデルもない時代だからである。実際、日本は事実上ここ15年ほどもデフレから脱却できていないのである。
英国の大胆な実験が成功するのかどうかは分からない。ひょっとすると歳出削減を急ぎすぎて景気がさらに悪化するかもしれないし、あるいは手をつけないとしていたNHSの負担に耐えきれず、医療サービスの切り下げを余儀なくされるかもしれない。それでも巨額の財政赤字の重圧に喘ぐ日本にとって、注目するに値する実験であることだけは間違いない。
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