「ずっと病院にいたいんです!」なんて言わないで:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
2007年に大阪で発生した、病院職員が患者を公園に遺棄するという事件。治療の必要はなく、入院費を払わない患者に行った病院側の対抗策だったが、遺棄した病院職員は逮捕された。ちきりんさんは、この事件から日本の社会保障のあり方を考察する。
お金だけもらっても暮らしていけないんです
こういう事件を見ていて思うのは、“生活保護は福祉の最後の砦”と言われますが、実際にはお金だけもらっても暮らしていけない人はたくさんいる、ということです。
今回のように障害がある場合がそうですし、認知症を患っていて単独での日常生活が難しい場合、高齢で寝たきりになり体の自由がきかない場合なども、たとえ保護費などお金が毎月、銀行口座に振り込まれても、1人で生活していくのは無理です。
そういった人が最後にどこに行き着いているのか、一般にはなかなか見えません。中には、無認可の劣悪な環境の高齢者施設、いわゆる“貧困ビジネス”に吸い込まれていく人もいるでしょう。また、年間3万人を超える自殺者の中にも、そういった最後の行き場所(生き場所)が見つけられなかった人が含まれていると思います。
ちきりんは小学生の時に裁判所見学に行き、そこで「冬を越せる長さの禁固刑にしてほしい」と裁判官に頼み込む被告を見て驚愕しました。不況の時代には「自由な外よりも監獄の中の方が生きやすい」という人は例外的ではないとも聞きます。“社会的入院”という言葉が示すように、行き場がないために病院に居続ける人も、この事件以前から問題になっていました。
普通は「一刻も早く出て行きたい」と願うであろう病院や監獄が、最後のセーフティネットとして機能している社会。貧困問題をこのまま放置していたら、20年後には多くの人が「病院に入れてくれ」「監獄に入りたい」と殺到しかねないとさえ思います。
将来の日本の“最後の砦”は、いったいどんな場所になるのでしょう。問題は決してお金(生活保護)だけではないように思えます。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。Twitter:@InsideCHIKIRIN。
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