“ぜいたく”が許されない人々:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
『五体不満足』の著者、乙武洋匡さんがあるインタビューで発した言葉に驚いたちきりんさん。その言葉を取っ掛かりとして、「ごく普通のことが、許されない“ぜいたく”のように言われてしまう人たちがいるのではないか」とちきりんさんは問題提起します。
“ぜいたく”が許されない人々
育児中の母親や、親を介護中の人にとって、冠婚葬祭などどうしても外せない用事がある場合には、誰かに「明日、手伝ってもらえませんか?」と頼めても、自分が美容院や同窓会に行くとか、ましてや友達と遊びにいくという理由で、ほかの人の支援は頼みづらいと聞きます。
これも同じ心理でしょう。「そういう立場の人がそこまで望むのはぜいたくだ」という気持ちが、頼まれる側のみならず頼む側にも存在していて、だから頼みにくいと感じるわけです。そして、自分が頼む時にそう感じる人は、誰かほかの人がそういう依頼をするのを見れば、「自分の楽しみのために子どもの世話を他人に頼むなんて身勝手だ」と思うのでしょう。
一般的な子育てでも10年は目が離せない時期が続きます。介護なら20年続くこともあるし、自分の子どもに障害があれば、自分の寿命の限りそういった生活が続きます。そんな中で、たまに自分が遊びに行くために人に支援を要請するのはそんなにぜいたくなことでしょうか。
世間には「この世には、生きるのに必要不可欠な最低限の活動と、楽しみのための“ぜいたく”な活動の2つがある」というコンセプトが存在するようです。
そして後者については「すべての人に許されているわけではない」のです。「楽しみのためのぜいたくな活動は、自分1人で生きていける、自分で稼いでいる、そういう人だけに許される。そうでない人は“生きるのに不可欠な最低限の活動”だけで満足するべきだ」、そんな考え方があるように感じます。
本人に障害があったり介護されている場合はもちろん、上記のようにそういう人の世話をしている人に対しても、往々にしてこの考えが適用されます。「自分の子(親)なのだから、あなたが面倒を見るのは当然であり、そんな最中に他人に世話を頼んで自分が遊びに行くなんてわがままだ」という話になるのです。
でも、たまに息抜きしたり楽しみのために出かけたりすることは、本来は、苦労の多い生活をしている人ほど必要であるはずです。育児中なのだから、介護中なのだから、障害を持つ子どもがいるのだから、遊びに行くなんてわがままだ、ぜいたくだと言われたら、つらすぎるでしょう。
楽しく笑いながら、時にはバカ騒ぎしながら生活を楽しむことはすべての人に許されている活動であるはずです。どんな立場の人であれ、ただただ息をして生存できていれば満足するべきだ、などと言えるはずがありません。誰かにとってごくごく普通の生活が、ほかの人たちにとっては手の届かないぜいたくなものである、なんてことはあってはならないのです。
障害がある人でも大学生活を楽しみ、時にはラブホテルにだって行くのかもしれない。介護や育児をしている人が、時にはカラオケで深夜まで騒ぐこともあるかもしれません。そういう行動が(自分には当然に許されるけれど)“彼らには許されるはずのないぜいたく”として非難されたり驚愕されるのではなく、ごく自然に、ごく当然のこととして受け止められる社会になればいいなあと思います。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
関西出身。バブル最盛期に金融機関で働く。その後、米国の大学院への留学を経て現在は外資系企業に勤務。崩壊前のソビエト連邦などを含め、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。Twitter:@InsideCHIKIRIN。
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