さすがはVoigtlaender、淡く柔らかな描写はすばらしい:-コデラ的-Slow-Life-
現像からの上がりを見て感じたのは、手前ボケもきれいということだ。奧のボケがきれいなレンズは多いが、大衆路線のカメラながら手前もきれいにぼけるレンズは、なかなかのめっけもんである。
シャッター不調から立ち直ったVITO CLR。低速での動作には自信がないので、昼間にテスト撮影に出かけた。光量があれば、シャッタースピードが上げられるからだ。
以前使っていたVITO BLは、露出計はあるが距離が目測なので、フォーカスを攻めた写真が撮れなかった。しかし、CLRは露出計も距離計も付いている。マニュアルではあるものの、かなり攻めた写真が撮れそうだ。
巻き上げは非常に軽く、ホントにフィルム入れたっけ? ってな感じである。露出計は電池不要のセレン素子なので、被写体に向けるだけで露出を計れる。その白い針に向かって、絞りとシャッタースピード調整し、赤い針を合わせていく。この季節の光量であれば、シャッタースピードは1/250か1/500でいける。
ファインダーは、ほぼ素通しのガラスなので見た目と同じである。従って、空中にフレームが浮かんでいるような使い勝手だ。CLRは距離合わせの二重像もファインダーにブレンドされるわけだが、両目を開けた状態でフォーカス合わせができるカメラは珍しい。
手始めとして、F4 1/250秒で4メートルぐらいの距離を撮影。VITO特有の柔らかな描写は同じである。発色が大人しいというか、淡い感じも同じだ。近距離は1メートルぐらいしか寄れないが、画角が50ミリなので構図が取りやすい。
F2.8開放での撮影では被写界深度がだいぶ浅くなるが、フォーカスがしっかりしているので不安はない。現像からの上がりを見て感じたのは、手前ボケもきれいということだ。奧のボケがきれいなレンズは多いが、大衆路線のカメラながら手前もきれいにぼけるレンズは、なかなかのめっけもんである。
撮影に力が入るカメラ
VITO CLRはいいカメラなのだが、難点を上げるとすればシャッター位置だろう。カメラを構え、中指で押し下げることになる。一見便利そうに見えるが、実際にはそれほどでもない。
この位置にシャッターを設けたカメラもままあるのだが、一番のネックは撮影時にカメラがブレることである。軍艦部にシャッターがあれば、全体的に下がるだけだが、前にあるとシャッターを押すときに、カメラが前に倒れてしまう。
これを押さえるためにはしっかりカメラをホールドしなければならないので、撮影時にかなり力が入る。カメラ自体の重さも720グラムぐらいあるので、結構疲れるカメラである。
そういえば以前紹介するのを忘れていたが、フィルムカウンターは底部にある。VITO BLと同じ減算方式で、最初に入れてあるフィルムの枚数をセットする。22枚目のところに目印があるのは、おそらく昔のフィルムが20枚撮りだったときの名残であろう。空送り分を2枚と想定しているわけだ。
フィルムの巻き戻しは、巻き戻しノブの後ろにあるレバーをスライドさせると、巻き戻しノブがポップアップする。実はVITOには、不用意な巻き戻しを防止するロック機構は存在しない。普通のカメラならば、巻き戻しノブがいつでも回せる状態になっているのでロック機構が必要なわけだが、VITOの場合は巻き戻しノブそのものをボディに埋没させることで、回せなくしてあるだけである。
こういった人間の行動や生理のようなものを上手くデザインして、機構を減らしてシンプルにしていくという設計は、いまの機材にも使える知恵ではないだろうか。
小寺 信良
映像系エンジニア/アナリスト。テレビ番組の編集者としてバラエティ、報道、コマーシャルなどを手がけたのち、CGアーティストとして独立。そのユニークな文章と鋭いツッコミが人気を博し、さまざまな媒体で執筆活動を行っている。最新著作はITmedia +D LifeStyleでのコラムをまとめた「メディア進化社会」(洋泉社 amazonで購入)。
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