“雇用流動化”という甘い言葉に、ダマされてはいけない:吉田典史の時事日想(3/3 ページ)
ビジネスパーソンは転職を繰り返し、自分に合った職場を見つけた方がいいのだろうか。「雇用流動化をもっと進めるべき」という人もいるが、この言葉の裏に潜む“本音”も忘れてはいけない。
ところが、社長(50代前半男性)は1回の面接で内定を出した。その理由は、彼がカメラマンらに話しているのを聞いて「モノになる」と思ったらしい。こんな感覚的な判断で、正社員として雇うことを約束しているのだ。当然、人事部は社内にない。創業経営者であり、オーナーである彼の一存ですべてが決まる。
そもそもテレビ局に送り出す人材に求められていたのは、何よりも語学力である。派遣先の局でする仕事は「ディレクター」と言っても、海外番組のナレーションの翻訳である。つまり取材をしたり、映像を編集したりする、いわゆる番組ディレクターではない。双方の間には、求められるスキルに大きな差がある。
そのテレビ局は、彼を派遣社員として受け入れることを拒んだ。「語学力が求められるレベルに達していない」という理由だった。ここで、社長の態度が変わる。「お前の能力が低いから」と何度も繰り返し、彼を突き放し始めた。さらに「自分に合った職場を見つけ出したほうがいい」と転職することをそそのかしたともいう。そして彼は、半年後に退職した。
「雇用流動化」なるものは、中小零細企業においてははるか前から浸透していたのだろう。ただし、それは、どこか胡散臭いものであったのではないだろうか。ところが、いまはこういう零細企業の経営者たちが自らのふがいなさを覆い隠す、免罪符になっている。一流のコンサルタントがこのあたりのことまで含めて「雇用流動化」を語ってくれることを期待している。
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