コラム
通貨切り下げ競争は、世界経済に何を及ぼすのか:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
円が「1ドル80円」を切ろうかという勢いである。現在の円高は、円が高いというよりドルが安いというほうが正確かもしれない。いずれにせよ通貨切り下げ競争が過熱すれば、最悪の事態を想定しておく必要があるだろう。
世界経済の傷がより深く
何が必要なのかは明らかであるとエコノミスト誌は主張する。要するに、借金まみれの先進国から新興国に需要がシフトしなければならない。新興国が国内消費を増やすような政策を取ることと、自国通貨を高くすることが世界の需要のバランス調整に役立つ。
もちろんこうした改革には痛みが伴う。通貨が高くなれば輸出企業の生産が低迷し、結果的に多くの労働者が職を失うという中国政府の懸念は理解できる。そして先進国が財政を引き締め、金融を緩和すれば、為替管理をしていない新興国には資本が流れ込んで、その国の経済をかき回す(実際、アジア通貨危機のときにはこうした外資の流入と流出が引き金になった)。
そして現状を打開するためには、中国の為替政策だけを標的にするのではなく、IMF(国際通貨基金)やG20など多国間のアプローチが必要だ。中国と米国だけに焦点を当てることは、問題の本質を見誤ることになる。
以上がエコノミスト誌の記事要旨だが、最大の問題は現状をどう打開し、経済を成長軌道に戻すのか、先進国間でもバラバラということかもしれない。要するにどの中央銀行家、経済学者、エコノミストが正しい答えを持っているのかよく分からないということだ。ただはっきりしているのは、今の状況で通貨切り下げ競争になったり、あるいは関税などで報復するようなことになれば、世界経済の傷がより深くなるということだ。
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