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時間と空間をゆがめるのが特徴――ジブリ・鈴木敏夫氏が見る日本アニメの現在と未来(後編)(2/5 ページ)

スタジオジブリ作品のプロデューサーとして、さまざまなヒット映画を手がけてきた鈴木敏夫氏。ASIAGRAPH2010で創賞を受賞した後に行われたシンポジウムでは、声の出演に俳優を起用する理由や、日本アニメの特徴やその未来について語った。

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外国は全体から部分へ、日本は部分から全体へ

西村 作品が全部できあがった後、プロデューサーの仕事として宣伝が大切だとおっしゃいましたが、鈴木さんと宮崎さんの方針が違うこともあるのですか?

鈴木 宮崎駿という人は作ることに専念しているので、普段、宣伝に口を出すことはありません。そこは役割分担です。もう見事なものです。気になる人は気になるんでしょうけど。


スタジオ・ジブリ

西村 ジブリ作品に限らず、日本のコンテンツは世界にも発信していて、評価もされていますよね。

鈴木 僕は日本のものを正当に外国の人に評価してもらうのは、至難の業だと思っているんです。確かに今、ジブリ映画がいろんな人から評価していただいていると思うのですが、「本質をちゃんと受け止めてもらえているんだろうか?」というと、はなはだ疑問もあるんですよね。それはいろんな外国の人と付き合ってみて、「世界の中で日本という国が特殊すぎる」ということを僕は思わざるをえないからです。

 先ほどピクサーの方が控え室にお見えになっていたので、建築における日本と外国の違いの話をしていたんです。


ピクサー公式Webサイト

 西洋だと一番分かりやすいのは教会なのですが、米国でも欧州でも、上から見るとみんな十字架の形をしているんです。これ以外作らないんです。上から見ると十字架、正面からみると左右対称。普通の民家に至るまであらゆるものが左右対称で、上から見るとある形になっている。教会だったら、建物内のどこに祭壇を置くとか、懺悔室はどうするかとかには多少工夫する余地があるので、違いが出てくるのですが。

 一方、日本の建物の作り方はどうなのか。薩摩藩の江戸屋敷とか見てみると分かるのですが、ごちゃごちゃしているんですよ。外国の人がよく「日本の建物見せてくれ」と言って来るのですが、複雑にできているので、みんな見て混乱するんですよね。それで必ずみなさん「設計図ありませんか?」とおっしゃるんです。

 これは受け売りの話ですが、今でこそ日本人も設計図を作ってから建物を建てますが、日本の江戸屋敷には設計図がないんです。

 江戸屋敷では最初に床柱を何にするかを決めます。それによってその家の風格が決定付けられるんです。安いものを使うと、ほかも全部安っぽくなってしまう。床柱の次は隣の引き戸を作ってとやっていって、そういうことが終わってから初めて「部屋の広さどうしようかなあ」となる。つまり、細かいところから入っていって、少しずつ作っていくんです。そして、1部屋できたら、「隣の部屋どうしよう」となる。

 ここで大事なこと。まだ、玄関もトイレもお風呂場もないんです。部屋を建て増しで作っていって、ある段階で「玄関やお風呂場をどこにしよう」というやり方で作っているんです。

 何が基本になっているかというと、室町時代以来そうなのですが、畳の大きさの天地180センチ、横90センチ。これをレゴみたいに組み合わせていく。こうしてできあがったものは上から見ると、教会を上から見た時の十字架とはまったく違ったものになる。右と左がごちゃごちゃなんですよ、ところどころはみでたりして。

 つまり、日本の建物の最大の特徴は建て増しだということです。これが外国の人に違和感を与えるんです。整理すると、外国は全体から部分へ行く、日本は部分から全体に行く。これはまったく違う発想なんですよ。

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