毒入り食品が世界中を駆け巡る:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
流通のグローバル化によって、さまざまな食べ物が世界中を駆け巡る現代。しかし、そんな状況に衛生面や安全面で対応できるような国際的なルール作りがなされていないのではないか、とちきりんさんは主張します。
食べ物が世界中を駆け巡る
ところで、50年前と今とでは、食べ物の流通が大きく変化しています。その1つとして、食べ物が世界中を駆け巡るようになったことが挙げられます。
食べ物を長距離輸送するには、冷凍コンテナなどの設備や野菜を空輸する技術、虫食いや腐敗を防ぐ薬品など、さまざまなものが必要となります。家電や繊維と異なり、生の食べ物が世界中をこんなに大規模に動き始めたのはここ数十年の話でしょう。
また、「食品の加工」を行う場所が家庭から工場に、また国内から海外に移り、食品が大規模工場で作られるようになったことも大きな変化です。
昔は国際流通する食品は、野菜丸ごとや魚丸ごと、肉は切っただけの生肉を冷凍したものでした。それ以上の加工(調理)は家庭で、もしくは国内のごく小さな調理工場で行われていました。ところが今は、この加工プロセスが海外の大規模工場で行われます。
それらの工場では、異なる国から別々に調達された原材料がベルトコンベアに乗って運ばれ、機械によって洗浄されたりカットされたりします。原材料の1つでも問題があれば全体が汚染されますが、それらの原材料がどこでどのように作られたものか、組み立てメーカー(調理メーカー)がすべてを把握することも難しくなっています。
食品の流通形態がグローバル化し、大きく変化する中、「そういった事態に衛生面や安全面からどう対応するか?」という方法論が、まだ国際的に確立していないようにも思えます。
10年ほど前、中国からの輸入野菜の残留農薬が問題になりました。その後、日本の商社や食品メーカーは現地の農場を指導して農薬の日本基準を導入させ、検査も強化しました。また、5年前にはうなぎなど養殖魚に残る抗生物質が問題になりました。その時も日本の輸入元が現地指導をして、日本基準に合わせて育ててもらえるよう改善を指導しました。
しかし、これではきりがありません。そもそも食料を輸出している国と輸入している国の基準が異なっており、その基準はそれぞれの国の経済状況を反映しています。問題が発覚するごとに個別の対応をとっているだけでは、問題はいつまでも続きます。
世界の農業議論といえば「自由貿易か保護貿易か」という視点ばかりが注目されがちですが、これからは安全性についても国際的なルール作りが必要でしょう。
問題はそれをどの国が、また、どういう機関がリーダーシップをもって提案していくか、ということです。各国の農業関係団体や役所が関税問題だけではなく、こういった分野での検討や協調をより強力に進めてくれることを期待したいものです。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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