なぜ待機児童は減らないのか?――JPホールディングスが保育事業に参入した理由:嶋田淑之の「リーダーは眠らない」(6/6 ページ)
大都市圏を中心として問題となっている待機児童。要因はさまざまだが、最大の原因は保育所の不足である。そんな保育業界を変えようと、2001年に新規参入し、現在民間トップ企業となっているのがJPホールディングスである。民間企業がなぜ保育業界に参入したのか。代表取締役の山口洋氏に尋ねた。
今後の目標は児童養護施設の運営
いまや保育ビジネスの民間トップ企業に成長したJPホールディングスだが、山口さんは今後、どこまで成長・拡大させていくつもりなのだろうか?
「数値的な目標は設けません。あくまで日本の保育を変革することが目的なので、そこに向かって突き進んでいくのみです。
企業としての社会的な信頼度を上げる必要性を感じて、2002年に株式を上場しました。上場したことによって、株主からは短期利潤を求められることもありますが、そういう時に私ははっきりとこう宣言します。『日本の保育を変革することを目的にしているので、短期利潤の追求はしません。もし、それにご不満なら株を売却してくださって結構です。あるいは弊社株式の過半を買い取って私を解任してください』と。
このような企業姿勢は、海外のいわゆる社会投資家からは高く評価されていますが、実際、こういう姿勢で経営する方が企業としては安定的に成長しますし、結果として株主の利益にもなると私は考えています」
事業内容の面では次の目標はあるのだろうか?
「児童養護施設を作ろうと考えています。2000年に女性社員の福利厚生としてパチンコ店に併設する形で託児所を設置し、パチンコ店の店員やお客さまも含める形で無料開放したのはお話しした通りですが、実はその当時から児童養護施設を作りたいと考えていました。
というのも、シングルマザーとして働いている女性には、苦しい生活を続ける中で子育てが負担となって子どもの虐待に走るケースが少なくないことを目の当たりにしていたからです。彼女たちの負担を少しでも減らしてあげたいということもあって託児所を作ったんですよ」
確かに待機児童と並んで、児童虐待は現代日本が抱える深刻な社会問題である。虐待から子殺しへとエスカレートするケースもしばしば報道される。
「保育園に来られる子は幸せなんです。それに比べ、児童養護施設に来る子は社会の底辺の子どもたちであり、私としても何とかしてあげたいのです。100%赤字になりますが、それでも、ぜひやりたい。そして、児童養護施設運営の1つのプロトタイプを作りたいと考えています」
最後にこれから子どもを保育園に入れるかもしれない読者の方々に向けて、良い保育園の見分け方を聞いてみた。
「子どもたちと先生方の表情を見てください。イキイキと楽しそうな表情の保育園はいいと思います。逆に先生が怒ってばかりいるところや、規律で縛っているところ、子どもたちの表情が明るく輝いていないところは避けた方がいいと思います」
顧客を軽視し、既得権益にしがみつく保育業界に参入し、挑戦を続けるJPホールディングス。待機児童や児童虐待という問題の解決を含め、日本の保育業界を抜本的に変革することができるのかどうか、今後も注目していきたいものである。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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