ワークライフバランスについてのビミョーな違和感:ちきりんの“社会派”で行こう!(2/2 ページ)
ここ数年、ワークライフバランスという言葉を、メディアなどで目にする機会が増えているという人は多いでしょう。しかし、ちきりんさんはワークライフバランスの議論には“微妙な違和感”を覚えると主張、その理由とは……?
3.「9〜17時の仕事をすること=ワークライフバランス」ではない
ワークライフバランスとは、「一切残業をせず、9時〜17時の仕事をすること」なのでしょうか? 多忙な仕事をすることは「悪いこと」なのでしょうか?
例えば「めちゃめちゃ働く5年間」→「主夫として子育てに専念する2年間」→「9時〜17時で働く3年間」→「めちゃめちゃ働く5年間」→「1年間放浪、もしくは留学」のように、人生全体としてバランスをとるのも、ワークライフバランスと言えますよね。
年間で見ても「むちゃくちゃ働く9カ月+南の島でぼんやり過ごす3カ月」の方が、「1年中通して9〜17時に働く」よりバランスが良いと思う人もいるはずです。
また、仕事内容や勤務時間が同じでも、在宅勤務になるだけで、十分にワークとライフのバランスがとれる人もいるでしょうし、会社員を辞めて自営業となり、スケジュール管理が自分でできるようになるだけで、たとえ労働時間が長くても「いいバランスだ!」と思う人もいるはずです。
ワークライフバランスという概念を“残業時間”とか“週当たり労働時間”のような偏狭な定義の中に閉じ込めず、個々人がその時々に自分にとってのベストバランスを追求できるような労働市場を作っていくことが重要なのです。
ワークとライフがバランスできない理由
突きつめて考えると、ワークとライフがバランスできない理由は、ワークの生産性が低いか、ライフの生活コストが高いかのどちらかです。仕事の生産性が低いと長時間働く必要がありますし、生活コストが高すぎると残業を増やしてでも収入を得る必要が出てきてしまいます。
そのため、ワークライフバランスの改善には、生産性の向上と生活コストの切り下げの少なくともいずれかが必要です。生産性を上げるには、個人と組織の両方で仕事のやり方を変える必要があります。無駄な会議や決済プロセスを省き、ITを利用してより短い時間で従来と同じ収入が得られるようにするのです。
また、生活コストを下げるには、お金をかけない生活様式に転換したり、格安な社会インフラを整備する必要があります。具体的には子どもの大学進学費用は本人に借りさせるとか、あまりにオーバースペックな社会インフラを見直して低価格化させるなどです。
ワークライフバランスというのは、個人の人生設計の仕方や社会のあり方、企業や産業の生産性の問題などと深くつながっています。「長時間働くことによって初めて生活が成り立っている人」が多い社会をそのままにして、いくら声高にワークライフバランスを叫んでも、なんら具体的な解決にはなりません。景気が悪化すれば「喜んで長時間働く!」という労働者が市場にあふれてしまうのですから。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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