数字で見る、ドイツの強さと弱さ:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
リーマンショック以降、四苦八苦している国が多い中、ドイツの“強さ”が目立っている。2010年の成長率は3.6%と、G7(先進7カ国)の中でもトップクラス。なぜドイツ経済はこれほど堅調なのか。数字を見て、強さと弱さを分析してみた。
ドイツ経済の弱点
しかし気になる弱点がある。1つは、GDPの約5%に達するという巨額の経常黒字(日本の経常黒字は、2010年で約17兆円であるから、GDP比では3.5%前後だ)。ドイツは中国の台頭にもかかわらず、G7諸国で輸出のシェアを落としていない唯一の国である。過去10年間における成長の約3分の2は輸出が寄与したものだ。
しかしこうした成長パターンを続けることは難しい。巨額の経常黒字が続けば、他国からの反発もある。しかも黒字の多くはEUの他の諸国との貿易によるものだ。しかしこれらの国の需要は今後弱まるものとみられている。
さらに生産性の伸び率が相対的に低いことも弱点として挙げられる。製造業の生産性は国際的に見ても高いが、サービス業は厳しい規制で競争が制限されているため低い。労働関係の規制が緩和されたために、過去10年間は従業員を増やすことでしのいできた。しかし今後は生産年齢人口が減ってくる。したがって生産性を上げない限り、GDPの成長にブレーキがかかることになる。
ドイツは過去10年、G7諸国のトップを走り続けてきた。その主たる理由は金融バブルを避けてきたからだ。しかしこのペースを維持するには、内需を増加させ、サービス業の生産性を改善することが必要だ。2010年の第4四半期は、それまでと違って輸出よりも内需が引っ張ってきた。主に企業の設備投資だが、個人消費も前年比2%ほど伸びている。労働市場が窮屈になっていることを考えれば、賃金にも上昇圧力がかかり、消費も増える可能性がある。
バブル経済を避けてきたドイツ
米国とドイツ、日本は、世界経済を牽引する三大機関車国と呼ばれていた。そして日本は1980年代末期にバブルを経験し、米国は2000年代に入ってからバブルを経験し、共に倒れた。バブルを避けてきたドイツはいま金融危機からいち早く立ち直りつつある。
ドイツは人口減少に悩まされているが、この問題は日本の方が切実である。総人口もさることながら、消費の主役である生産年齢人口が減ることが、需要にも大きな影響を与える。その上、GDPの2倍というG7諸国では圧倒的に高い巨額の公的債務が、将来世代の購買力に重しとなってのしかかるのは目に見えている。
すでに日本の国債も格下げされた。米国の景気が回復して金利が上昇してくると、日本の国債環境は一段と厳しくなるだろう。それを見越して政治が何をするかが問われているときに、また「解散・総選挙」などという噂が流れ始めた。政治の漂流で日本丸が沈没する懸念が高まるのは、日本国民にとってあまりにも不幸というしかない。
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