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コラム

警察小説の作り方が変わったワケ――ここでも団塊世代の影響か相場英雄の時事日想(1/3 ページ)

テレビドラマや小説で、警察組織などを扱った“警察モノ”が増えている。かつてよく目にした「取調室にカツ丼」といったシーンは少なく、警察関係者しか知らないディテールにこだわった作品が目立つ。こうしたブームの裏側には、捜査員たちの悲痛な嘆きも込められているようだ。

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相場英雄(あいば・ひでお)氏のプロフィール

1967年新潟県生まれ。1989年時事通信社入社、経済速報メディアの編集に携わったあと、1995年から日銀金融記者クラブで外為、金利、デリバティブ問題などを担当。その後兜記者クラブで外資系金融機関、株式市況を担当。2005年、『デフォルト(債務不履行)』(角川文庫)で第2回ダイヤモンド経済小説大賞を受賞、作家デビュー。2006年末に同社退社、執筆活動に。著書に『株価操縦』(ダイヤモンド社)、『偽装通貨』(東京書籍)、『偽計 みちのく麺食い記者・宮沢賢一郎』(双葉社)などのほか、漫画原作『フラグマン』(小学館ビッグコミックオリジナル増刊)連載。ブログ:「相場英雄の酩酊日記」、Twitterアカウント:@aibahideo


 書店の平台、あるいはレジ前などに『警察小説フェア』『刑事特集』などと警察をテーマにした小説や文芸誌の売場が設けられているのを目にしたことのある読者は多いはず。同様に、テレビのゴールデンタイムには人気俳優を主人公に据えた刑事ドラマがずらりと並ぶ。最近、文芸やドラマの世界で警察を扱った作品が増えているのはなぜだろうか。“警察ブーム”の内幕に触れてみる。

裾野広い購買層

 小説や漫画、あるいはドラマの世界で、警察組織や刑事を扱った作品、あるいはプロスポーツ選手や銀行マンを主人公に据えた作品群は「職業モノ」と呼ばれることが多い。特殊な職場環境や慣行が読者(視聴者)の興味を引くという要素があるほか、主人公が壁にぶち当たり、これを克服していく姿に共感を覚える読者が多いことが職業モノの増加の背景にある。

 バブル経済が崩壊して以降、不良債権処理に追われる銀行マンが登場する作品が増えたことをご記憶の向きも多いはず。

 「無理難題を命じる役所」「保身に走る上司」「ギスギスした人間関係」――こうした設定で正義感の強い主人公が動けば、銀行員だけでなく、融資先の企業で働く会社員にもキャラクターに対する共感が広がる。銀行モノが小説界で確固たる地位を確立し、小説を原作にしたドラマや映画が多数生み出されたのは、職業モノの方程式にピタリと符合したからに他ならない。

 もう1つ、職業モノには欠かせない要素がある。その職業に就く人口が多いか否か、という点だ。人口が多ければ作品に共感してくれる読者の数も増えるはず、というのが筆者を含めた創り手側の狙いなのだ。

 この点にがっちりと当てはまるのが、警察組織なのだ。

 全国には約26万人の警察官が存在する。東京を管轄する警視庁に限っても、警察官の数は約4万5000人に上る。「命令には絶対服従」「組織間の縄張り争い」など、警察組織の中には職業モノに欠かせない要素がたくさんある。換言すれば、警察官に共感してもらえる作品を創れば、出版不況の中でも一定数の部数(視聴率)が見込める、というのが出版界やテレビ界での警察ブームの一因になっている。

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