“暇つぶし”とは何か――ゲーム中でも「暇だ」と思う理由:野島美保の“仮想世界”のビジネスデザイン(3/3 ページ)
ゲームのきっかけとして挙げられる“暇つぶし”。しかし、ユーザーは、文字通り「暇な時間にあふれている」のだろうか。動画を見ながらゲームをする、電車に乗りながらゲームをする、放置ゲームをしながら別のタスクをするなど、むしろマルチタスクなゲームプレイで忙しそうだ。アンケート調査から、改めて暇つぶしの意味を考える。
時間競争の先にあるもの
いまや、携帯・タブレット端末などさまざまな情報端末が登場し、日常のあらゆるシーンでコンテンツが提供されるようになった。すると、日常の中の数分という隙間時間であっても、もはやその“隙間”すらないのではないかというほど、現代人は忙しくなった。
アンケート調査にあるように、「空いた時間はあるか」と問われて「ある」と明言する人は少ないだろう。にもかかわらず、暇つぶしでゲームをする人は多い。
PC画面ではいくつもウィンドウを立ち上げ、同時並行的に作業する。ただ電車に揺られるのではなく、狭い車内でできることを探す。こうしたマルチタスクな行動は、「無駄に時間を費やす」という暇つぶし語源とは正反対であるように見える。
ほんの数分であっても、何かしら活動を行うことで、ゲームのレベルが1つ上がるような小さな成果を目にしたい。これを、現代人は暇つぶしと呼ぶのではないか。時間を多重的に使う現代のライフスタイルは、暇つぶしの定義すら変えるのだろうか。
「これ以上の隙間時間はない」と時間競争が手詰まりになると、今度はマルチタスクを前提にしたコンテンツ競争が待っている。問題は、余暇時間の長短ではなく、ユーザーの目に見えないフラストレーションを解消することにある。その上で、同時並行的に視聴させる仕組みを構築しマネタイズまで持っていく、マルチタスク特有のビジネスモデルが課題となる。
野島美保(のじま・みほ)
成蹊大学経済学部准教授。専門は経営情報論。1995年に東京大学経済学部卒業後、監査法人勤務を経て、東京大学大学院経済学研究科に進学。Webサービスの萌芽期にあたる院生時代、EC研究をするかたわら、夜間はオンラインゲーム世界に住みこみ、研究室の床で寝袋生活を送る。ゲーム廃人と言われたので、あくまで研究をしているフリをするため、ゲームビジネス研究を始めるも、今ではこちらが本業となり、オンラインゲームや仮想世界など、最先端のEビジネスを論じている。しかし、論文を書く前にいちいちゲームをするので、執筆が遅くなるのが難点。著書に『人はなぜ形のないものを買うのか 仮想世界のビジネスモデル』(NTT出版)。
公式Webサイト:Nojima's Web site
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