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コラム

“石油ショック2011”、あるかもしれない藤田正美の時事日想(2/2 ページ)

リビア情勢が混迷するにつれ、原油相場が上昇基調にある。リビアの石油産出量は世界需要の2%にすぎないが、このままでは「石油ショックが起きるかもしれない」という懸念が残る。こうした不安の背景には、どういった問題が隠されているのだろうか。

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エネルギー需要は確実に増加する

 IEAが発表したWorld Energy Outlook 2010によれば、2035年までに世界の石油需要は現在よりも1500万バレル多い日量9600万バレルに達するという。その増加分はほぼOECD加盟国以外の国、すなわち発展途上国によるものだが、中でも中国が約半分と突出する見通しにある(中国がロシアやアフリカ、中央アジアとの関係を強めているのは、こうしたエネルギー需要構造が背景にある)。

 エコノミスト誌によれば、リビアの産油量が減った分を、サウジアラビアが埋め合わせるとしてもそう簡単ではない。サウジ原油は、硫黄分が多いために、リビア原油を輸入してきた欧州の精油所では対応できないという。アジアの新しい大規模精油所なら精製できるため、アジアが輸入している西アフリカ産の原油(質的にリビア産に近い)を欧州に回し、サウジ産の原油をアジアに回すといった複雑な仕掛けをつくらなければならないと、同誌は指摘している。

 それよりも重要なのは、こうした原油相場の上昇は、一時的な要素というよりも「構造的」なものであるということだ。中国やインドといった新興国は現在の段階ではエネルギー消費量は先進工業国よりもはるかに少ない。しかし例えば中国は今や世界最大の自動車市場。毎年1500万台(日本の約3倍)を超える自動車が販売される。


主要国のクルマの生産台数(出典:日本自動車工業会)

 これらのクルマのほとんどはガソリンで走るのである。先進国は自動車も含めて省エネが徹底しており、米国ですらかつてのようなエネルギーをがぶ飲みするような体質ではなくなりつつある。1980年と2008年を比べると、米国は経済規模でほぼ2倍だが、石油消費はほとんど横ばいだ。欧州や日本は減っている。ただそれでもエネルギー需要は確実に増加する。

 供給側の問題は、油田の上にある国の多くが、政治的に不安定であることだ。リビアがまさにそのことを実証した。しかも世界最大の産油国であるサウジアラビアも王政の国。北アフリカや中東で燃えさかっている民主主義を求める民衆の動きがサウジアラビアを飲み込む可能性もある。そうなったら原油価格が上昇するのはもちろん、供給不足になって、先進国も新興国も軒並み経済活動が停滞する。


 世界のエネルギー事情がこれほど緊迫しているときに、日本の政治は「内輪もめ」で停滞あるいは後退しているような状況だ。すぐに対応策を打てるような性質のものではないとしても、楽観的なシナリオから悲観的なシナリオまでいくつか描いて対策を考えておかなければ、いざというときに右往左往するだけだ。そのために絶対に必要なのは、政治家の「想像力」だと思うが、それこそ明らかに「希少資源」だと言っては言い過ぎだろうか。

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