なぜ私たちは“全体最適”を受け入れるのか:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
「全体の最大利益のために、個人の最大利益を捨てる」という“全体最適”の考え方。私たちはその全体最適の考え方をどこで学んできたのでしょうか。
(3)「全体最適=自分最適」の人が、全体最適思想を主張・推進している
例えば、銀行の経営者が「銀行に公的資金を入れるのは日本経済全体のためになる」、と主張するのは「全体最適=自分最適」ですよね。これでは「全体のことを考えているように見えても、実は単なるエゴでは?」という気がします。
世の中には、全体最適で考えると「自分の人生において一度も得をしない人」もいるのではないでしょうか。そういう人にとっては、常に我慢をさせられて、イザという時に自分を助けてくれない全体最適という考え方は「詐欺的な理屈」に思えても不思議ではありません。
理屈では「全体最適を追求すれば、特定の個が常に得したり常に損したりすることはない」というのが前提です。しかし、実際には「かなりの確率で得する個」と「かなりの確率で損ばかりしている個」に分かれているようにも思えます。
すると、「かなり得しやすい個」は「全体最適で考える人」になり、自分は常に「犠牲側」もしくは「メリットが少ない側」に置かれるという経験則がある人にとっては、全体最適を受け入れがたくなるでしょう。そしてその「かなり得しやすい個」が社会の指導層にいれば、その社会全体で「全体最適で考えるべきだ」という思想が啓蒙されます。そういう意味では全体最適というのは一種の「強者の理論」なのです。
例えば、コストが安く大量の電気の安定供給ができる原子力発電所を設置することは、国全体のエネルギー政策としては「全体最適」だったのかもしれません。また、原発の立地を選ぶ時に、「地価が安く、人口密度の低い地域」に設置することも「全体最適」としては正しい考え方だったのでしょう。しかし、原発が設置される付近の住民や自治体が、その理屈を受け入れないことも、必ずしも責められるべきことではない、ということなのです。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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