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コラム

その“善意”が命を奪うかもしれない……SNSの隠れた凶暴性相場英雄の時事日想(2/3 ページ)

誘拐事件が発生すれば、メディアは「報道協定」を結ぶ。誘拐犯がどこで警察や記者を監視しているか分からないため、メディアは取材活動を自粛する。しかし捜査員が聞き込みに回った際の動向が、ネット上に流れてしまったのだ。

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誘拐報道

 筆者の古巣である時事通信社の編集マニュアルから「誘拐」に関する記述を一部抜粋する。

 『誘拐▽警察から仮協定の申し入れがあったら、直ちに本社社会部に内容を報告、本協定締結の許可を得る。本協定が成立したら、時刻を含めて報告。▽協定中は独自取材は一切できないので、警察発表を漏れなく社会部へ。社会部はこれに基づいて、ドキュメントを作るとともに、契約各社に編集連絡を流し、取材・報道の自粛を要請する。▽協定解除と同時に直ちに取材に移行できるよう、本社、支社……』

 マニュアルの主旨は、誘拐事件が発生したら一切動くな、ということだ。

 誘拐犯がどこで警察や記者を監視しているか分からない。取材活動が犯人に悪用され、人質を危険にさらしてはならないという判断からだ。協定発効中は、記者が被害者宅を訪れることは絶対にないし、捜査員の間を聞き回ることも原則禁止。「人質の生命」を左右する誘拐は、細心の注意を必要とするニュース素材なのだ。多くの記者は規制やシバリに屈しないが、誘拐だけは別だ。記事よりも人質の生命、安全確保が最優先課題だからに他ならない。

 筆者が通信社の整理部(社会部や経済部などから原稿が集まる最終関門)に勤務していたころ、2件の誘拐事件に遭遇した。警視庁とマスコミ各社の間で誘拐に関する報道協定が成立した際の緊張感は他に例をみなかった。仮に筆者が整理部の情報端末の操作を誤り、新聞・テレビ以外の商社や事業会社といった「協定外の読者」に流れれば、誘拐事件が一般に漏れてしまう。

 こうした読者の中に誘拐犯の一味がいたら……。もし誘拐犯が警察に事実を告げないよう、被害者家族に強く要求していたらなどを考えると、社会部原稿を処理する手が震えたことを鮮明に記憶している。

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