放射性物質の“流れ”は公表できません――気象庁の見解は世界の“逆流”:松田雅央の時事日想(3/3 ページ)
福島第1原発から放出された放射性物質はどのように拡散しているのだろうか。ドイツでは「放射性物質拡散シミュレーション」を公表しているが、日本の気象庁は“国民向け”には発表していない。その理由を気象庁に聞いた。
弊害がないなら開示すべき
シミュレーションはあくまで仮定に基づく情報で、実際の放射線量を完璧に反映したものではない。
「それを承知した上で要望があるから開示する。それが義務」というドイツ気象局と、「だから開示しない」という気象庁の考え方には根本的な隔たりがある。両者の情報開示に対する姿勢の差を象徴しているといってもいい。
原発を基点とする風向きと放射性物質の拡散の様子を知りたいという要望は、この時期、市民が抱くごく自然な要望だと思う。だからこそ、例えば下記のような気象情報があるわけだ。
「気象庁によりますと、福島第1原子力発電所の周辺では、現在、南から北に向かって弱い風が吹いているとみられます……」(NHK 、15日)
気象庁はシミュレーションを開示しない別の理由として「分解能が荒く国内対策の参考にならないから」を挙げているが、福島から遠いところに住む人が拡散の傾向を知りたいと思ったとき、100キロメートルの分解能で十分である。「遠く離れているはずなのに、なぜ自分の住むところからも放射線が検出されるのか」といった疑問を持つ人にとって理解の助けになると思う。
また、近隣諸国にとっても貴重な参考資料となるに違いない。望むと望まざるとに関わらず海外の公的機関がシミュレーションを公開しているわけで、当事国の気象庁が開示していないというねじれた状態は、いかにも不自然である。
「シミュレーションを開示することによって弊害がある」という積極的理由があるなら話は別だが、少なくとも筆者は気象庁の示す「開示しない理由」に納得できない。立場によっては「シミュレーションを見た人が『広い範囲を高濃度の放射性物質が覆っている』のように誤解する」という危惧を抱くのかもしれない。しかしながら、それは国民の理解力と判断力をあまりに低くみすぎている。
できない理由を列挙し、開示できないことをかたくなに主張するより、一般の気象情報と同じように開示し、利用に当たっては注意事項を併記した上で利用者に任せてはどうだろう。シミュレーションの開示・非開示に関する気象庁の姿勢については、読者に考えていただきたい問題だ。
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