“欲張り”総理に、欠けているもの:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
日本の財政問題は危機的な状況にある、と言っていいだろう。基礎的財政収支は歳出を10%カットし、消費税を10%上げて、ようやくとんとん。このほかにも社会保障関連費用が毎年1兆円ほどかかるが、民主党に打つ手はあるのだろうか。
指導者としてのリーダーシップが必要
巨額の財政赤字に悩む米国でも財政赤字削減プランが、民主、共和両党それぞれの案が出てきた。オバマ大統領は12年で4兆ドル(1ドル80円換算で約320兆円)、共和党は10年で4.4兆ドル(約352兆円)である。しかし中身は全く異なる。オバマ大統領は1兆ドルの増税を提案しているが、共和党はむしろ減税を主張する。オバマ大統領は新しくできた医療保険制度(5000万人とされる無保険者を減らすために国が補助する制度)をさらに強化したいとしているが、共和党はこの法律そのものを廃止せよと主張する。オバマ大統領は軍事費を減らすとしているが、共和党はこれには慎重だ。
税金を誰からどのように徴収するのか、産業を促進するような政策を取るのか、社会保障をどうするのか、年金をどうするのか。また、そういったことを実現するのに規制を緩和するのか強化するのか(換言すれば市場機能に任せるのか、それとも政府機能を強化するのか)などなど、対立軸はいっぱいある。
これらの対立軸で自分たちの意見を押し通し、一方で対立する政党と妥協を図ってよりよい社会に向かって進むためには、それこそ指導者のリーダーシップが必要である。何よりも自らのビジョンを語って、国民の支持を得なければならない。その一点を取っても、菅首相はすでに失敗している。さらに大震災を、政権を延命させる「千載一遇のチャンス」ととらえて政治的な駆け引き(自民党の谷垣総裁にいきなり入閣を求めたのが好例である)をする姿には失望すら覚える。
菅首相は自分の評価は歴史に任せたいというようなことをよく言うが、歴史に評価されたいなら少なくとも自分のビジョンを国民に何度も説明しなければなるまい。「強い経済、強い財政、強い社会保障」というような抽象論ではなく、具体的にどのような道筋で何を実行するのか、そのとき国民にどのような痛みを分かち合ってもらうのかを分かりやすく説明する必要がある。同時代の国民を納得させることができずに、歴史家を納得させることができると言い張るのは、単なる評価の先送りに過ぎないのである。
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