チェルノブイリ原発事故から25年――反原発デモを取材する:松田雅央の時事日想(4/4 ページ)
チェルノブイリ原発事故から25年が経過した。事故の起きた4月26日は反原発運動の記念日となり、ドイツでは毎年、各地でデモやイベントが開かれている。今回の時事日想は、ドイツ南西部にあるネッカーウェストハイム原発で行われたデモの様子をレポートする。
デモ行進終点となる原発前の駐車場には飲料品と軽食を売るテントが立ち、トラックの荷台には屋外ステージが用意されていた。頃合いを見計らって反原発バンドの演奏が始まり、主催者のあいさつ、反原発運動に参加する医師のスピーチ、ウクライナの市民団体で活動するロシア人のスピーチが続いた。
ステージ後ろの横断幕にも「1986チェルノブイリ、2011フクシマ/原発を止めろ!」と書かれている。フクシマの名がこういう形で有名になろうとは、3月11日以前は誰にも想像できなかった。これからチェルノブイリ記念日が来るたび、「フクシマ」の名が叫ばれるのかと思うと気が重い。
何人かにチェルノブイリとフクシマがドイツに与えた影響を聞いてみた。ここでは代表として、先に登場したBUNDフリース事務局長のコメントを紹介する。
「大きく分けて2つの側面があると思います。放射能汚染の直接被害とその恐怖という点で、チェルノブイリとフクシマは比較になりません。しかしながら原子力政策に与えた衝撃はフクシマが勝ります。これまでドイツの原発(軽水炉)はチェルノブイリ型の原発(黒鉛炉)と違い安全とされてきましたが、その前提が覆されたからです。フクシマとドイツの安全対策は同レベルとはいえ、フクシマで起きた事故はドイツでも起こり得ます。技術先進国で過酷事故が起きたことによって、ドイツでも原発の安全神話は吹き飛びました」
フクシマが世界をどう変えるかは、まだはっきりしない。またフクシマの名がこれからどう扱われるかも不明だが、日本政府のまずい対応を見る限り、残念ながらチェルノブイリ同様「原発のネガティブな象徴」に向かって突き進んでいるようだ。
「不十分・不透明な情報開示」「責任所在のあいまいさ」「放射線安全基準の甘さ」といった指摘は嫌というほどされているのだが……。今からでも遅くない。次世代のため真に大切な決断を下す政府へと、大胆な変身を遂げることを願わずにいられない。
関連記事
- 復興スマートジャパン
- 海外でのイメージは? 原発事故を起こした“フクシマ”
原発事故の発生から、1カ月が経とうとしている。海外メディアでも冷静な報道が目立ってきたが、市民の間では「フクシマ=危険」というネガティブイメージは根強い。こうしたイメージを払拭するにはどのようにすればいいのか。 - 放射性物質の“流れ”は公表できません――気象庁の見解は世界の“逆流”
福島第1原発から放出された放射性物質はどのように拡散しているのだろうか。ドイツでは「放射性物質拡散シミュレーション」を公表しているが、日本の気象庁は“国民向け”には発表していない。その理由を気象庁に聞いた。 - 放射性物質はどのように拡散するのか――情報開示に消極的な気象庁
福島第1原発から大気中に放出された放射性物質は大気中をどのように拡散していくのか。放射性物質の拡散を予測した気象データがあるが、このことを知っている人は少ない。なぜなら日本の気象庁が予測データを積極的に開示しないからだ。 - 福島第一原発の復旧バイトに申し込んでみた
東日本大震災での津波による事故で、危機的な状況となっている福島第一原発。復旧のための作業員を募集していたので、応募してみた。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.