第一人者が語る、震災後のエコタウンはこうすべし:松田雅央の時事日想(3/3 ページ)
東日本大震災の復興コンセプトとして、エコタウン構想が取りざたされている。菅首相は「植物やバイオマスを使った地域暖房を完備したエコタウンを作る」と語ったが、どのような姿が適しているのだろうか。そこでエコ建築の第一人者に、話を聞いた。
自然と環境
ルフラー教授とピア設計事務所の手がけたエコ建築(高齢者介護施設)。中心市街地に新設した高齢者介護施設。もちろんエコ建築であり、空調に地熱を利用している。介護機能だけでなく、入居する高齢者の「最後の住居」としての安らぎと暮らしやすさも重要ポイント
教授:「もう1つのポイントは天然資源の有効活用です。
太陽電池や太陽熱温水器の設置はもちろん、冬に太陽光を多く取り込む間取りにすれば、暖房はほとんど必要なくなります。さらに、年間を通して温度がほぼ一定(15度程度)な地下の熱を夏は冷媒に、冬は熱源として利用します。地熱利用はドイツでも実用化の研究が進められており、大変大きな潜在能力が期待される分野です。
私はコロンビアの首都ボゴタでエコ建築プロジェクトに参加していますが、ここは夏冬の温暖差が激しく地震の多発する土地です。そこで改めて感じたことは伝統的な素材で建てられた木と土の建物が持つ優れた居住性でした。近代的なコンクリート作りの住宅は風の通りが悪くカビが生えてきます。それに対して伝統的な家屋は土壁が湿気を吸収し、天井に通気口があるため空気の流れが途切れません。また土の庭に打ち水をし、庭の木がほどよい木陰を作るので夏も快適に過ごすことができます」
冷暖房、給湯、照明、家電のエネルギーに、太陽光やバイオマスといった再生可能エネルギーを積極的に利用するほか、「太陽電池+ヒートポンプ」「コジェネレーション(熱電併給)+電気」といったシステムの最適なコンビネーションが鍵を握る。
ドイツと違い日本の夏は暑く冷房用のエネルギーが大きな部分を占めるが、ここでも再生可能エネルギーを有効活用できるという。
教授:「当大学では『ソーラー冷房』を研究しています。高温多湿な空気を吸湿材に通すと冷たく乾燥した空気に変えることができます。吸湿材が機能しなくなったら、今度は太陽エネルギーを使って乾燥剤を乾燥させる仕組みです。また冬に多量の氷を貯蔵して夏に利用し、水を循環させるのに再生可能エネルギーを使うこともできます」
エコタウンは、ある程度人口密度を高くし、建物はできるだけコンパクトに作らなければならない。これも基本原則の1つである。
自然空間がほしいからといって広大な土地を使えば、それだけで環境への負荷が高くなる。建物はコンパクトで質の高い集合住宅を基本とし、公園や広場を充実させる。クルマに頼らずとも徒歩と自転車で買い物を済ますことのできるショッピング街や公共施設の配置も基本だ。一戸建てが並ぶ住宅地に公共交通を効率よく通すことはできないので、ある程度固まって住むことが条件となる。
教授:「(エコタウンに関しては)まず理念を持ち、それぞれの地域条件に合わせて具体化することが大切です。よりよい将来を信じ、助け合いの精神を大切にしてほしいと思います」
これが教授から被災地に向けられたメッセージだ。
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