続・Twitterはコミュニケーション革命なんかじゃない:遠藤諭の「コンテンツ消費とデジタル」論(3/3 ページ)
TLを見ていたら数時間経ってしまった――そんな経験はないだろうか。なぜ、Twitterによって新しい時代の“活字中毒”が生じているのか? 筆者が着目するのは「ネットワークとしてのTwitter」だ。
実のところ、いま「ヤバイ」と言われている新聞の「政治経済面」から「三面記事」まである紙面構成も、こうした情報の「ばらつき欲求」を満たしていたとも思える。要するに、Twitterと新聞は、際立ったいくつかの点で類似しているのだ。しかし、Twitterがネット上の他のメディアや新聞と異なるのは、たった1つのつぶやきで、それに関係する話題の状況が一変することである。
パプア・ニューギニアのホタルのようにすべてが同期するようなことはないが、ユーザーたちの「TL」(タイムライン=ホーム画面にならぶ文字列)が変化するようすは、想像力を刺激するものがある。
これは、Twitterが「自己書き換え系」のメディアだからかもしれない。コンピュータの世界では、プログラムなどを自己書き換えすると、その計算効率が素晴らしく向上することがある。しかし、そのまま発散して答えが求まらないか、止まってしまうなど、まずいパターンであるとも言われてきた。
いろいろな見方があると思うが、Twitterは「山の天気」なのだ。「複雑系のメディア」だといえるかもしれない。しかも、ワッツとストロガッツの論文が明らかにしたのは、フォローで構成されるネットワークが、想像以上のパフォーマンスを発揮するものである可能性が高いということだ。
膨大な情報がタレ流されるのは、ネット全体の傾向だが、この点でTwitterはほかのメディアと根本的に異なる。
その視点からすると、グーグルが毎週やっている索引作りの膨大な処理(それは結果リストが乱れることから「グーグルダンス」と呼ばれる)は、いまや牧歌的なプロセスのように見えてくる。グーグルもそれは知っていて、同社がMSNと競うようにしてTwitterのリアルタイム検索にお金を投じ、それによってTwitterが初めて黒字化しそうだというのはご存じのとおりだ。
そろそろ、20世紀の産業社会が大好きだった「整列主義」から脱して、自然界に存在するネットワークに身を置ける。Twitterは、そんな「ネットワーク意識革命」の練習問題みたいなものではないか。 【遠藤諭、アスキー総合研究所】
遠藤 諭(えんどう さとし)
1956年、新潟県長岡市生まれ。株式会社アスキー・メディアワークス アスキー総合研究所 所長。1985年アスキー入社、1990年『月刊アスキー』編集長、同誌編集人などを経て、2008年より現職。著書に、『ソーシャルネイティブの時代』、『日本人がコンピュータを作った! 』、ITが経済に与える影響について述べた『ジェネラルパーパス・テクノロジー』(野口悠紀雄氏との共著)など。各種の委員、審査員も務めるほか、2008年4月より東京MXテレビ「東京ITニュース」にコメンテーターとして出演中。
コンピュータ業界で長く仕事をしているが、ミリオンセラーとなった『マーフィーの法則』の編集を手がけるなど、カルチャー全般に向けた視野を持つ。アスキー入社前の1982年には、『東京おとなクラブ』を創刊。岡崎京子、吾妻ひでお、中森明夫、石丸元章、米澤嘉博の各氏が参加、執筆している。「おたく」という言葉は、1983年頃に、東京おとなクラブの内部で使われ始めたものである。
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