ユッケだけではない、食のプロが警鐘を鳴らす生食の危険性――樂旬堂坐唯杏、武内剋己さん:あなたの隣のプロフェッショナル(4/4 ページ)
焼肉酒家えびすでの、ユッケによる食中毒事件発覚から1カ月。O−111に起因するこの事件の被害者は死者4人におよんでいる。生牛肉に限らず、生食にはどのような危険性があるのか。数年前から警鐘を鳴らし続けてきた樂旬堂坐唯杏の総料理長&CEOである武内剋己氏に詳しく尋ねた。
放射線が日本の「食」を救う!?
細菌や寄生虫などによる食中毒の問題は、人類の歴史と同じくらい古いと言っても過言ではないが、決定打になるような防止法はないのだろうか。
「実は、決定打になる可能性を秘めた方法が1つ存在するんです。それは『電子線滅菌』です。欧米では広く行われている方法で、例えばイチゴやレタスなど生食用の食材や各種スパイス類の滅菌・殺虫に普通に用いられています。アジアでも韓国などでは、20種類以上の食材で電子線照射が行なわれています。しかし、日本ではジャガイモの発芽防止用の照射しか認められていません。
この技術を生肉の滅菌に適用できるようになれば、生肉を安全に食べられるようになるのですが、電子線とはすなわち、放射線ですからね。福島第1原発の事故によって、放射線全般に対する警戒感が強まったことで、その実現はさらに遠のいたかなと残念に感じています」
川本産業 電子線滅菌
今なお続く飽食の時代にあって、確かに我々生活者の食生活は一見豊かになったようにも思える。しかし、それは同時に、さまざまな細菌や寄生虫が人体に侵入する可能性が大きく拡大したことをも意味していよう。自分の身は自分で守るというのが基本姿勢ではあろうが、電子線滅菌であれ何であれ、1日も早い「決定打」の登場を期待したいものである。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
関連記事
- 創業1300年! 世界最古の温泉宿に行ってみた――慶雲館52代当主・深澤雄二氏(前編)
変化の激しい現代、そんな中でも数々の困難を切り抜けて生き残ってきた“長寿企業”がハイライトされる機会が増えている。その1つが西暦705年創業の西山温泉慶雲館である。温泉宿としては世界最古の慶雲館、現代でも人気を保っている理由を第52代当主の深澤雄二氏に尋ねに行った。 - なぜ談合は悪いのか?――公共工事で余った880万円を返金しようとした、希望社の真意
「公共工事で余った880万円を返還します」。今年8月に岐阜県の建設会社、希望社が岐阜県に対して申し入れた提案が話題を呼んだ。希望社はなぜそんな提案をしたのか。桑原耕司会長にその真意を尋ねると、そこには公共工事の入札に関わる問題点が潜んでいた。 - ラーメン界をリードしてきた男は何を作ってきたのか? 「博多 一風堂」河原成美物語(前編)
四半世紀にわたって、ラーメン界をリードしてきた「博多 一風堂」。その経営者・河原成美氏はどのような思いを込め、ラーメンを作り続けてきたのだろうか? 彼の人生を振り返りながら、ラーメンに対する熱い思いを紹介する。 - 嶋田淑之の「リーダーは眠らない」バックナンバー
- 嶋田淑之インタビュー連載「あなたの隣のプロフェッショナル」バックナンバー
- 嶋田淑之の「この人に逢いたい!」バックナンバー
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.