この夏には間に合わないが、日本の建物は断熱に力を入れるべき:松田雅央の時事日想(3/3 ページ)
震災に伴う電力不足から「冷房を入れたいけど、我慢しなければ……」と思っている人も多いのでは。建物の断熱性能を向上すれば夏も冬も今よりは快適に過ごせるので、もっと積極的に取り組むべきだ。
再生可能エネルギーの熱利用
図1に見られるとおり、新築は太陽熱温水器とエネルギー効率の高い暖房・給湯設備の設置を標準としている。もし設置できない場合は、省エネ基準2009よりさらに15%厳しいU値が適用される。
このことは2009年1月に施行された「再生可能エネルギー熱利用法(EEWarmeG)」にも関連する。同法は、新築される建物に対し暖房と給湯に再生可能エネルギーの熱利用を義務付けるものだ。
例えば住居面積150平方メートルならば、約6平方メートルの太陽熱温水器の設置が必要となる。太陽熱温水器の代わりに木材ペレットやバイオディーゼルのボイラーを設置したり、庭に配管を巡らせて地熱を利用してもいい。再生可能エネルギーではないが、地域温水供給やヒートポンプの利用も同法に準じるものとして扱われる。もしそれらが難しい場合にはコジェネレーションの利用や、さらに厳しいU値が適用される。
冷房にも有効
断熱性能の考え方は基本的に暖房だけでなく冷房にも生かせる。
ドイツの建物は屋根裏部屋をごく普通に住居や事務所として使用する。筆者はドイツへ来る前、映画やドラマに出てくる屋根裏部屋に欧州の典型的な街並みを感じ憧れを持っていたが、実際の住環境は最悪だった。夏は日中の熱気が屋根を通して室内を蒸し、冬は一転して寒気がこたえる。屋根には質の高い断熱を施し、窓には外付けブラインドを設置して直射日光を遮らなければ夏はとても住めたものではない。
今回のテーマは新築や改築時の対策でありこの夏には間に合わない話だが、日本の建物も断熱性能の向上に積極的に取り組むべきだ。日本型の省エネ基準はあるにはあるが、他国のレベルに肩を並べるのは数字だけで、実施の実態は先進国として誇れるレベルには程遠い。数値を定めるだけでなく、再生可能エネルギーと一体化した制度設計、一般市民にも分かりやすい情報提供や広報活動など課題は多い。
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