東電社員よ、避難所に足を運んでいるのか:相場英雄の時事日想(4/4 ページ)
6月初旬、筆者の相場英雄氏は郷里の新潟県三条市を訪れた。そこでは「1日でも早く故郷に戻りたい」という福島県から避難した人と接することに。さらに東京電力に対する、怒りの声を聞くことになった。
憲法違反状態を是正せよ
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」――。
今さら説明するまでもないが、日本国憲法第25条の条文だ。先の杉さんのインタビューをもう一度、読んでいただきたい。
三条市が懸命に避難者のケアを実行していることから、衣食住に関しては「最低限度の生活」が維持されている。ただし、杉さんが触れたように、彼らが避難所生活を強いられているのは、あくまでも原発事故によって生じた人災によってのこと。
インタビュー中、「まだこの避難所に東電の人は1回も来ていない」と発言したあと、杉さんはしばし黙り込んだ。人災を引き起こした加害者に対する怒りが、沈黙に直結したのだと筆者は理解した。
杉さんは、親族の葬儀さえままならない状態に置かれている。身近な人を弔うという行為まで封じられ、居住の自由さえも制限されている。言い換えれば、人間としての尊厳を深く傷つけられているのだ。批判を恐れずに言えば、この状況は憲法25条に違反しているのではないだろうか。
國定三条市長のインタビューで、同市長は避難された方々に気を遣わせないよう腐心していると語った(関連記事)。実際、杉さんらは、こうした意図を敏感に感じ取り、市長や市の職員たちと気さくに接していた。だが、筆者は何度も首を傾げた。本来ならば、三条市の職員や市民のボランティアが担っている南相馬市の住民たちへのケアという役割は、加害者である東電が率先して行うべきではないのか。
東電には、約3万6000人の社員がいる。原発事故対応が手一杯で、避難所まで人を割く余裕がなければ、お得意の“下請け”“孫請け”を人材派遣会社などから動員すべきではないのか。三条市職員や、市民のボランティアの善意に依存し、また、避難した住民の声を聞くことなく、企業としての体裁を保てるとは、筆者は到底思わない。
南相馬市をはじめ、東北地方の人たちは我慢強い。また、自らの意志を声高に主張する人たちではない。郷里の三条市民についても同じことが言える。先週掲載したインタビューで、國定市長は語気を強めて東電を批判したが(関連記事)、首長という立場上、まだ腹の底には大きな怒りが沈殿していると筆者はみた。
永田町で椅子取りゲームを繰り返す国会議員、そして災害の当事者でありながら、取材時点で一度も避難所を訪れていない東電関係者は、憲法違反状態を自ら作り出し、かつ杉さんら避難民を苦しめ続けていることを、改めて理解していただきたい。
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