株式市場から“自由”になる会社たちの行方:ちきりんの“社会派”で行こう!(3/3 ページ)
株式公開すると、投資家から「利益を出し続けろ」「成長を続けろ」というプレッシャーを受ける一方、会社の目標は定めやすくなる、というちきりんさん。近年、あえて株式公開しない企業が増えていますが、そうした企業では目標設定が難しくなるのではないかと主張します。
企業のゴールをどのように決めるか
そうなると、次に興味深いことは「それらの企業が自ら設定する企業としてのゴールが、どのようなものになるのか」という点です。
株式公開すると、企業は投資家から「利益を出し続けろ」「成長を続けろ」というプレッシャーを受けます。一方、株式公開をしなければ、各企業は「自分でゴールを定める自由度」と「自分でゴールを設定する必要性」を手にします。
これは個人も同じで、世間が要求する「良い大学」「良い会社」「良い家庭」のようなお決まりの目標を受け入れると、束縛はされますが、やるべきことが示されているので、ある意味ではラクなのです。
一方、「別に大学に行かなくてもいいし、別にいい会社に入る必要もない。家庭も持っても、持たなくてもいいよ」と言われると、どう生きていけばいいのか分からなくなり、悩み始める人も出てきます。中には「自分探しのアリ地獄」に足を取られて、動けなくなる人も出ます。
企業に関しても「必ずしも成長を続けなくてもいい」という状況に置かれると、同じようなことが起こるのではないかと思うのです。自由というのは、面倒でつらいものです。多くの人はそれを“持てあまし気味”になります。個人にとっても企業にとっても、自由度が高まることは諸刃の剣です。
「企業が常に外部から利益と成長を求められる」という公開会社の制度は、これまで世界の経済成長と社会資本形成に大きな貢献をしてきました。では、その束縛から自由になった企業は何を社会に残していくのでしょう?
「生きたいように生きる個人」と「利益にこだわらずやりたいことをやる会社」――言葉はかっこいいですが、実際には自由に生きられる人が極めて少ないように、自由にやっていける会社も限られています。
自由になり、押し付けられた使命から逃れれば、その代わりに「自ら使命を掲げ、それにコミットし、自らを動機付けていく」ことが求められます。それは実は、決まった使命を押しつけられるより圧倒的に大変なことです。
ちきりんとしては、「株式公開を目指さない」とあえて言う起業家たちがそのチャレンジを乗り切り、企業という社会的な器の存在意義に新たな地平を開いてくれることを期待しています。
そんじゃーね。
著者プロフィール:ちきりん
兵庫県出身。バブル最盛期に証券会社で働く。米国の大学院への留学を経て外資系企業に勤務。2010年秋に退職し“働かない人生”を謳歌中。崩壊前のソビエト連邦など、これまでに約50カ国を旅している。2005年春から“おちゃらけ社会派”と称してブログを開始。著書に『ゆるく考えよう 人生を100倍ラクにする思考法』がある。Twitterアカウントは「@InsideCHIKIRIN」
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