なぜサマデイは異分野の音楽座ミュージカルと早稲田塾を両立できるのか?:嶋田淑之の「この人に逢いたい!」(5/5 ページ)
ミュージカル制作では「音楽座ミュージカル」、進学塾では「早稲田塾」と一見関連性のない両分野で全国的な評価を獲得しているサマデイグループ。独立系のベンチャー企業が成長できた背景には何があったのか。音楽座ミュージカルで取締役チーフプロデューサーを務める石川聖子さんに聞いた。
東日本大震災を乗り越え、明日に向けて
東日本大震災を経て、ミュージカル興行をめぐる環境は激変していると聞くが、その実情と今後の見通しについて最後にお聞きしたい。
「東京公演を例に挙げると、それまで10回来てくれていた人が、震災後は3〜5回くらいになりましたし、夜の公演の来場者は減って、昼の公演(マチネー)の方が中心になっています。そもそも民主党政権になってから文化に対する助成金が出なくなるなど、経営環境が厳しくなっていましたから、このような変化は確かに脅威です。
でも、その一方において、震災を機に日本人の意識も大きく変容し、自分の人生に真正面から向き合い、どう生きるべきかを自らに問うようになってきています。それは人間の弱さ醜さを認めつつ、人生というステージで自分を演じ切ることの大切さを長年にわたって訴え続けてきた私たちにとっては機会でもあるわけです。
そういう意味において、演出家が変わるたびに世界観も変わるという多くの劇団と異なり、ワームホールプロジェクトを通じて、そうした世界観を全員で共有し、“変えるべからざるもの(=「不変」の対象)”として一貫して追求してきたことが強みとして生きてくると思います」
筆者はこれまで舞台芸術に関しては、オペラ・オペレッタ・バレエなどの公演には過去数十年、好んで足を運んできたものの、ミュージカルに関しては残念ながら馴染んできたとは言い難かった。しかし、この取材に先立って音楽座ミュージカル『リトルプリンス2011』の東京公演に接し、「ああ、こういう内容のミュージカルなら今後も観てみたい」という思いを深くした。
その要因はやはり、このミュージカル作品の底に流れる人間洞察が決してきれいごとではない、人間の本質をついたものだったという点にあるだろうし、それが演じる俳優1人1人の一挙手一投足に巧まずしてにじみ出ていたからであろう。
音楽座ミュージカルでは、すでに秋公演『アイ・ラブ・坊っちゃん2011』の準備が進んでいるようだ。果たして、どんな作品に仕上がるのだろうか。
人生というステージを演じ切るにはどうしたら良いかを強烈に体感できるという同社の「企業研修」ビジネスともども、震災を機に変容したと言われる我が国において、どのように受容されていくのか見守っていきたいものである。
嶋田淑之(しまだ ひでゆき)
1956年福岡県生まれ、東京大学文学部卒。大手電機メーカー、経営コンサルティング会社勤務を経て、現在は自由が丘産能短大・講師、文筆家、戦略経営協会・理事・事務局長。企業の「経営革新」、ビジネスパーソンの「自己革新」を主要なテーマに、戦略経営の視点から、フジサンケイビジネスアイ、毎日コミュニケーションズなどに連載記事を執筆中。主要著書として、「Google なぜグーグルは創業6年で世界企業になったのか」、「43の図表でわかる戦略経営」、「ヤマハ発動機の経営革新」などがある。趣味は、クラシック音楽、美術、スキー、ハワイぶらぶら旅など。
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