世界経済がまた厳しく……野田首相を取り巻く環境:藤田正美の時事日想(2/2 ページ)
世界経済がまた一段と厳しくなっている。特に厳しいのは債務危機が再燃しているギリシャだが、それだけでなくポルトガル、アイルランドといった国も「リスクが高い」とみられている。こうした状況に対し日本の野田政権ぱどのような手を打ってくるのだろうか。
デフレを懸念する投資家
欧州の「国債危機」は景気対策の足を引っ張っている。ギリシャやポルトガル、アイルランド、スペイン、イタリアといった国々では、景気刺激などしている余裕はない。財政再建の具体策を示し、かつ実行していかなければ資金繰りがつかなくなってしまう。ユーロ圏でつくった救済機関にしても、スペインやイタリアといった経済規模の大きな国が行き詰まった場合には間に合わない。つまり欧州発の金融危機に陥る可能性があるということだ。
現在の資金の流れを見ていると、多くの投資家はインフレよりもデフレを懸念しているということだろう。デフレに落ち込めば、景気が立ち直るチャンスは小さくなる。日本がほぼ20年にわたって苦しんでいる状況である。野村総合研究所のリチャード・クー氏の議論に従えば、家計や企業が借金の返済をしてバランスシート(貸借対照表)を立て直そうとする結果、需要が落ち、景気が悪くなる。いわゆる「バランスシート不況」だ。
こういったときには、政府が借金をしてでも需要をつくりだすことが必要だ、と主張する積極財政論も根強くある。日本では例えば国民新党の亀井代表などがその典型だ。確かに、日本の国債利回りが「政府の借金のしやすさ」を示す指標と考えるなら、GDP(国内総生産)の2倍近い借金の水準など気にすることなく、国債を発行すればいい。国債の格付けは引き下げられたが、それはしょせん格付け会社の見方、実際の投資家は違う見方をしているという言い方もできる。
もっとも返す当てのない借金を積み重ねるのは個人にしても企業にしても、そして国にしても破たんへの道であることに違いはなかろう。いくら日本が豊かな国(国民の金融資産が1500兆円もあり、在外資産の残高は世界一で貿易収支が赤字になっても全体の収支では大幅な黒字)であっても、国に貸し付ける資金が無尽蔵にあるわけではない。
野田首相を取り巻く環境
野田内閣は財政再建に軸足があるように見えるけれども、実際にはそこに重心をかけすぎるとそれでなくても落ち込んでいる需要がさらに落ち込むことにもなりかねない。例えば公務員人件費を2割カットして国と地方で合わせて5兆円を「節約」するということは、5兆円の需要が減るということとほとんど同義なのである。もしそれをいきなりやれば、今でも20兆円という需給ギャップ(供給過多)がさらに膨らむということになり、デフレ圧力はいっこうに弱まらない。
大震災の復興需要も含めていったんは積極財政を展開し、その後に、経済が安定軌道に乗ったところで財政再建に転じるというようなシナリオを描くしかないようにも思える。問題はそれを許してくれるだけの時間があるかどうかだが、それは誰にも分からない。ただはっきりしているのは、野田首相を取り巻く世界の環境はまた一段と厳しくなっているということだ。
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